GMG-034「暑さも削りたい」
また一か月ほど、お付き合いください!
視線を感じる。
敵意とかそういうのじゃなく、待ち切れないという視線。
それを半ば無視して、ハンドルを回し続ける。
その動きに合わせて、小気味よい音を立てて削れていくそれが、視線の原因だったりする。
「お待たせしました。お好きなのをかけてください。かけすぎると溶けてしまいますので」
「うむ。ああ、毒見はいい。その間に溶けてしまうではないか」
それすらも気品を感じる仕草で、私から木の器を受け取る男性……領主であるワンダ様だ。
どうせ、マリウスさん経由で私がこれを、かき氷機を作ったことを聞いて、興味を惹かれたんだろう。
(まあ、今年は暑さが長引いてるらしいしね)
いくら領主様と言っても、毎日涼をとるという訳にもいかないんだろうな。
そんなところに、未知の涼をとる方法があるとなれば食いつくのもわかる。
わかる……けども!
「せめて、馬車の方は日陰に移動させましょうよ。御者さんも命令を受けてないからそのままじゃないですか」
「ん? おお! そういえば……すまん、休むように伝えてくれ」
こんな一言ですむんだから、領主様ってある意味気軽だなあと思うのだ。
もっとも、上には王様がいるんだから、中間ゆえの苦しみもきっとあるんだろう、うん。
大事そうにかき氷を食べ始めるワンダ様を見つつ、御者の人たちにも何かをと思い、集中する。
試作品を貰った形の木のコップに、かき氷のシロップ代わりにしている物を注ぎ、実行。
風を産むのではなく、直接中身を少しずつ回転させて冷やせばあっという間に出来上がりだ。
最後に親指の先ほどな氷を浮かべて終わり。
「器用な物だな。それで攻撃は不慣れというのだから、つくづく魔法は奥が深い」
「なんでも、使い手の想像力が影響するらしいですよ」
おかわりは好きに削ってくださいと告げ、外にいる御者さんたちに冷えた飲み物を渡しに向かう。
私が生み出す不思議な物にはもう慣れた物、といった様子でワンダ様が削り始めるのを見るとなんだか不思議な気分だ。
子供じみた面もある領主様だけど、私が色々なことに巻き込まれないように立ちまわってくれているらしい。
「こんな時間でも、もう暑いですね」
「そうなんだよ。ありがたい」
すっかり顔なじみになった御者さんと、そんな言葉を交わしつつ、空を見る。
今年の夏は、長く、厄介だ。
(またサラ姉のところに差し入れにいこうか……いや、むしろ他の物を試した方がいいのかな)
この町、シーベイラはまだましな方だ。海のそばだから、潮風もある。
内地よりははるかにましだけど……まあ、暑い物は暑い。
放っておけない性質なので、お年寄りの家や、サラ姉のように赤ちゃんがいるお家には不定期に氷を産み出しに立ち寄っている。
みんな喜んでくれるけど、あまり私の気まぐれだけに頼るようなものじゃ、困ってしまう。
結局、ワンダ様はそれからしばらくして、満足そうにお屋敷に帰っていった。
あっちはあっちで町があるんだし、いいのだろうか?
マリウスさんは、一度一緒に戻るらしいから珍しく私1人になる。
ちなみにあれこれを作ったり、応対をするのにいつまでも教会と、教会横の家では不便な時もあるだろうと、薬草小屋のそばに一軒家を建てた。
贅沢? そうかもしれない。でも、実質一人暮らしっていうのも寂しい物だなと思うのだ。
私の中のお婆ちゃんも、こどもたちがみんな街に出た後は一人だったし……。
そんなことより、この暑さ対策だ。
「行水……うちわ……扇風機……エアコン……うーん、機械はまず無理だからなあ」
記憶が告げる、暑さ対策もこの世界では多くが再現できない。
いわゆるイメージが、魔法には大事だということはわかったのだけど……。
私が出来ても、それだけじゃ意味が無いのだ。
(私並みにやれる人がたくさんいたらってわけでもないんだよねえ)
理想は、洗濯板ぐらいにいざとなれば普及できるレベル。
そうなると、やはり機械めいたものを目指すしかないのだろうか。
「やってみるとわかるけど、冷房っていうのは魔素の消費が大きいから……うーん」
実際、かき氷をあのまま10人分とか作ったら私もふらつく。
徐々に魔素の容量は増えているけど、急にって訳でもないしね。
となると、涼しく感じる、がポイントだろう。
「んー、良い風。やっぱり潮風は良いわよね」
シーベイラ自体は、風を少し避ける形で建てられている。
まあ、そうじゃないと一年中風が吹く場所というのは暮らしにくい。
町の周囲には、防風林って呼べそうな林もあるし、壁も多い。
(それが逆に、暑い理由かしらね)
街外れの、潮風を感じられる場所で町を観察する。
パッと見て感じるのは、茶色い……だった。
記憶にあるような、コンクリートだとかがないのもあるけど、やっぱり煉瓦は簡単だもんね。
「あっ、そういうことか!」
どこまで効果があるかはわからないけど、ひとまずの対処法を思いついた。
そのまま駆け出す先は、雑貨屋さん。
カンツ兄さんも働いている、町一番のお店だ。
探索者や討伐者も出入りする、刃物から日用品までなんでもござれ。
お店の人とも顔なじみだ。当然と言えば当然。
私が思いついて、試作した物はここで売ってもらうことが多いのだ。
「ちょっと野菜たちを見に来たの」
「この暑さじゃ、駄目になるんじゃないかい?」
まあ、そうなのよねなんて兄さんに答えつつ、見るのは町の農家さんが持ち寄った野菜たち。
これが意外と、旅に出る人に売れるのである。
海に漁に出る場合も、野菜1つあるだけでだいぶ違うらしい。
それはともかくとして、探し物は……あった。
「それ、一応繊維が取れるらしいけど面倒らしいよ?」
「ええ、承知の上よ」
そうして手に取ったのは、つるのある奴。
木だとか、壁に這うように育つ奴なのだ。
そう……緑のカーテン作戦である。
まずは実験からということで、神父様に声をかけて教会横で試そうと思う。
もしだめなら、少しかわいそうだけど魔法を使ってでも取り除くことになるだろうなと思う。
(さて、これの効果が出るのは少し先だから他にも……)
そこそこ暮らしをするのにも、苦労がいる。
次なる一手を考えて、いくつかの苗を手に教会へと向かうのだった。




