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GMG-033「夏の蜃気楼」


「ほーら、良く冷えたお水だよー」


「ちょっとターニャ、急に飲ませたら駄目よ」


 汗だくの私は、自分が飲んだ残りを赤ちゃんに飲ませようとして、サラ姉に叱られた。

 確かに、赤ちゃんには冷たすぎるかもしれない。


 代わりにと、適当な布を2枚、魔法で濡らして少し冷やす。

 そのままサラ姉に渡せば、頷き。どうやら正解の様だった。


 椅子に適当に座って、体の中の熱を出すかのように大きく息を吐いた。


「なあに、そんな風に。作業が大変なの?」


「作業はね、まあなんとか。でもみんなの期待が、ちょっと重い」


 外を向けば、扉の隙間から夏の日差しが襲い掛かってきている。

 魚人の襲撃からしばらく、シーベイラには兵士の人たちがいてくれた。


 結果的には、あれから魚人の襲撃はなく、外れだったわけだけど……。

 帰る王都の兵士と違い、領主様配下の兵士さんたちは残った。


「まさかついでにと、訓練場作りまでやらされるとは……」


 あれは、魚人たちが上陸して荒れてしまった砂浜を片付けているときのことだった。

 手伝ってくれた兵士の人たちが、ひぃひぃいってるのを見て、思わずつぶやいてしまったのだ。


 砂浜って、いい訓練になるんですよね……と。


 もちろん、ただ訓練に良いというだけで話が進むわけじゃなかった。

 例えば、シーベイラのような場所に軍を動かすのには理由もお金もいる。

 けれど、領主がいる街やその周辺にいるだけじゃ意味がないと考えていたらしい。


 他にも理由はあるのだけど、集中した訓練のためという名目で兵士を派遣できることになるというのだ。

 こっそりマリウスさんに聞いた話によると、私発案のあれこれでシーベイラは儲け始めている。

 そこを誰かに襲われないように、と牽制の意味合いもあるらしい。


(そういえばおばさんたちに、褒められたっけ)


 生活に余裕が出て来たらしく、行商の人からちょっと贅沢に買い物が出来るようになったって話だ。

 それは普段の生活や服なんかにも表れている。お肉が出る頻度が少し増えたりとかね!


「そういえば、もうすぐ像の完成なのかしら?」


「うっ、忘れようとしていたことを……」


 出来れば当日まで忘れていたかったこと、それは私を題材にした像の制作だ。

 正直、恥ずかしいから全力で反対したいのだけど……教会の中にしか置かないからと言われて押し切られた。


 モデルは、私が赤ちゃんを助けた時の話だ。

 あの時は必死だったけど、ずっと私も赤ちゃんも光っていたらしい。

 ついでに、胸元の卵石も。


 シーベイラの聖女、という名前は段々広がっているらしい。

 さすがに聖女なんて知りません、とは言えなくなったので最近は礼儀作法も勉強中だ。


「でも心配したのよ? 倒れて丸1日目を覚まさないんだもの」


「私も、起きてすぐに赤ちゃんのことを気にしたっけ……」


 私はあの時、気絶してしまった。さすがに集中して魔素を使いすぎたかららしい。

 赤ちゃんはすぐに元気になり、横に寝たままの私の手を握って離さなかったらしいのだ。


 サラ姉の赤ちゃん……女の子は、今も私をじっと見ては笑っている。

 遊ぶおもちゃはもっていなかったので、卵石を袋ごと揺らしてやればまた笑ってくれた。


「ありがとう、ターニャ」


「私はやりたいことをやっただけ。それに、色んな事をこの子に教えたいしね」


 微笑み、訓練場の整備に戻るべく立ち上がった。

 暑いのは嫌だけど、手伝ってくれているマリウスさんもねぎらいにいかないとだ。




「んー! やっぱ暑いなあ」


 潮風があるといっても、暑い物は暑い。

 それでもどこか活気あるシーベイラの町並みを眺めながら、浜の方へと向かう。

 最近じゃ、買い付けにくる商人も増えたらしいから万々歳だ。

 賑わう市場を横目に、向かう先では出来上がり始めている小屋たち。


「さて、まずはお水の補給からかな!」


 視線の先では、海が平和な光景をいつものように作り出している。

 打ち寄せる波、照り付ける太陽。


 ゆらゆらと、蜃気楼のようにゆれる景色に体を揺らしながら、今日も一日を生きる。




完結ではないですが、区切りということで一度更新は止まります。


そのうち再開しますのでよろしくお願いします!

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