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GMG-022「母の笑顔は国の力」


「ほう……ほほう!」


「ど、どうでしょうか」


 少し声が震えている私。

 その横で、同じようにドキドキしている兵士や大工さん。

 王様の無茶振りで、私を手伝うことになった人たちだ。


(失敗はしてないから、大丈夫だと思うんだけど……)


 作ったのは久しぶりだねえなんて、お婆ちゃんの記憶が懐かしんでいる。

 視線を集めているのは、井戸に設置された装置。


 装置というのも少し大げさかもしれないけど、はねつるべっていうやつ。

 せっかく人手があるならと、数本の材木でやぐらを組んで、そこに長い棒を通した。

 重りになりそうな石は、補修用の建材があるというからそれを拝借。

 長くしたほうには、井戸に入れる桶の方を縄でくくり、後は使うだけ。


「まずはこっちを持って、井戸に押し入れます。見ての通り、私みたいな子供でも中に入っていきます」


 いつの間にか、見知らぬ……たぶん偉い人たちが集まっていた。

 言葉に出来ないほどの緊張感の中、覚悟を決めて実演を始めた。


 てこの原理ってやつを使ったこの仕組みは、お婆ちゃんの若い頃にいろんな場所で使われてたんだって。

 そんなに井戸が深くなくて助かったみたい。


 水桶の方を井戸に入れ、縄を下に引っ張りながら棒の先端をなんとかつかみ、さらに押し込む。

 すると、井戸から水音。桶が下までたどり着いた合図だ。


 後はゆっくり手を緩めていけば反対側の重しの都合で棒が上に上がり、水桶も上がる。

 すぐそこまで上がってきた水桶を井戸の外に出して、水瓶にざばっと。


「全部手を放しちゃうと、上にすぐ戻ってきちゃうので支えながらかなと思います。縄で何度も持ち上げる必要が無いと思いますよ」


「なるほどなるほど。そこの兵士、名前は……ああいい、やってみせろ」


「は、はいぃ!」


 不幸にもか、それとも顔を覚えてもらえる機会かはわからないけれど、指名された兵士さん。

 ちょっとかわいそうに思いながら、やり方をもう一度説明する。

 さすがに兵士となれば、私より力があるからか、かなりスムーズに動かすことができた。

 続けて、普段水汲みをしているという下っ端の使用人の女の子が指名され、同じように実験。


 結果は、私のというよりお婆ちゃんの記憶通りになった。

 ほっとする私とアンリ兄さん。たぶん、ワンダ様たちもそう。


 そんな私に影が差す。顔をあげて驚いた。王様が目の前にいる。


「いいぞ、娘。この仕組み、買い上げよう。なあに、差し出せなどとケチなことは言わん。望みを言ってみよ」


 驚くことに、王様は私の肩を叩き、そう告げた後はじけるような笑顔で笑い出したのだ。

 その姿と緊張で固まる私の頭も、少しずつ回り始める。


(望み……かぁ。でもこれは……)


 お婆ちゃんの記憶という、ある意味借り物の力という気持ちもある私は、少し悩んだ。

 私の半分であるターニャの部分は、何もいらないし、王様とお話で来ただけすごい!って思ってる。

 もう半分のお婆ちゃんは……うん、そうだよね。


「恐れながら、私の望みはこの仕組みを、陛下の力で全国に広めていただきたいということです。町や村、どこにでもいる母親や子供たちが、少しでも水汲みから解放されれば嬉しいです。洗濯板もそうですけど、母親の笑顔は国を豊かにすると思うんです」


 ちょっと子供らしくなかったかな?と思うけど今さらだ。

 王様は私が、別の人生を夢で見たという神父様との話をワンダ様経由で聞いているはずなのだから。

 夢に影響されて、背伸びしていると思ってもらえればそれでいい。


「ターニャよ、欲が無さすぎるな。言われずとも、国の力を底上げするこの機会、逃すものか。ああ、なるほど。妙な利権が絡んで、利用できない村等が出ないようにということだな。うむ、良い視点だ」


「はい。もうあまり覚えていませんが、母の手は家事で荒れていました。それも母の手ですけれど、楽をしてもらいたいというのも本当の気持ちです」


 視線の先で、使用人の女の子が少し恥ずかしそうに手を隠しているのが見えた。

 きっと、水汲み当番ともなればどうしても手が荒れているんだろう。


「気に入った! 娘よ、帰る前に魔法棟へ寄るが良い。確か魔法を扱うのだったな? 何か刺激になるやもしれぬ、年寄りが多いからじじ臭いかもしれんがな」


 そうして、王様は笑いながらどこかへ立ち去ってしまった。

 たぶん、お仕事に戻るんだろうけど……。


(緊張したぁ……もう、どっきどき)


 一歩間違えたら、お仕置きとかあったかもしれないもんね。

 見れば、ワンダ様やマリウスさんも汗だくだ。

 アンリ兄さん? うん、まだ固まってる。


「なんとかなりました……かね?」


「あ、ああ。間違いなくな。普段、笑わぬと言われる王があそこまで軽快に笑うのは久しぶりだ。魔法棟なら私も用事がある」


 結局、私とアンリ兄さん(固まっているのを叩いて起こした)、マリウスさんにワンダ様とお供の人たちとでその魔法棟に向かうことになった。


 王様の戻っていった場所とは違う方向に、確かに建物が1つある。

 廊下を通って……なんだろう、なんだか独特の感じ。

 外にも、変な形の壺とか結構ある。


「なんだか、王城にあるとは思えない場所だな」


「私もそう思ったわ。あれも何か魔法に必要なのかしら?」


 お婆ちゃんの記憶にある、何かこだわりのある人に特有の片付けられないだけという気もしないでもない。

 というのも、多分ゴミを詰め込んだだろう桶とかも隠れておいてあるからだ。


「ここはいつもこんな感じだよ。さて、所長に会えるといいのだが」


 ここからは別に用事があるということで、ワンダ様はお供の人と一緒に奥に消えていった。

 残された私と兄さんと、マリウスさん。

 さて、どうしようかというところで誰かが走ってくるのが見えた。


「ええっと、貴女がターニャさん?」


「はい、そうですよ」


 王様は、じじ臭いかもしれないと言っていたからお爺ちゃんばっかりと思ったら、とんでもない。

 サラ姉よりは年上かな?と思うような女性だった。

 研究の邪魔にならないようにと後ろでまとめられた髪は赤。

 たぶん恋人がいるだろうなあって思うスタイルの良さだった。


「ついさっき、陛下から話をして知識を深めよって連絡があったんですよねえ。ひとまず、お茶にしましょうか。お菓子もありますよ」


「よろしくお願いしますっ」


(お菓子! ということは甘い物!)

 

 魅惑の言葉に、私は二つ返事でお姉さんについていくことを決めたのだった。



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