GMG-019「王都からの呼び出し」
突然だけど、この国には王様がいる。
地図を見たことはないけれど、大体長靴の国みたいな立地で、やや太い。
北側に大きな山脈があり、この場所に人が住めるようになったのは最近なのだとか。
そんな国の中央にいる王様。なんでも、結構な武闘派で領土を増やそうとしてるとか。
まあ、通れる場所があるからって、怪物がたくさんいる山のふもとを超えて来た先祖を持つだけある……かな?
一応、港を頑張って作って、それから住む人を集めたらしいけど。
「そんな相手に会うのか……うーん」
無理難題をってことは無いと思うけど、どんな要求があるかはわからない。
顔が見たかった、で終わることもなさそうな予感である。
気分転換に、薬草小屋の手入れをしながら時間を過ごす。
管理人さんも雇えたので、仮に私が一か月向こうに滞在、となっても枯れることはない。
「実験が出来なくなる、そう思ってたけど……なんだかもう結果が見えてるような。マリウスさん、どうです?」
「確かに明らかな違いがありますね。色艶……試してみないと何とも言えませんが、効能も違うと思っていいのでは?」
2人で見つめる先には、明らかに周囲より生い茂っているとある薬草。
切り傷等、怪我に良く使う類の、あちこちに生えてる珍しくない奴だ。
もっとも……ここまでしっかり育った奴を見つけられることはなかなかない。
自分の魔法訓練がてら、水に手を付けて何か魔法にする前の力を放出し続けた物を上げていた。
その実験結果が、この妙に質のよさそうな薬草の状態。
「他の動物とかにも有効なのかしら……いえ、むしろ……」
「私も気になるところですが、そこはやらないほうがよろしいかと」
人間、しかも兵士な人たちの食べ物にそうしたらどうなるか。
そんな考えが一瞬頭をよぎり、マリウスさんが止めてくれた。
そうだよね、うん。そこから先は私が考えることじゃない。
(下手なことをやって、国中で聖女扱いなんてされたくないものね)
どこに行っても聖女様と人が集まる、そんな光景を想像して体を震わせた。
それを、小屋から出たからだとごまかしながら教会へと戻る。
ちょうどお昼の祈りの時間だったようで、神父様の声が外まで聞こえてきていた。
私は家から入り、自分達で料理を始めていた弟たちに合流する。
そこには、鍋に向かってチーズを削り出しているアンリ兄さんがいた。
「兄さんがこの時間にこっちにいるのって、珍しいわね」
「おお。温かくなってきたからなあ。まずは街道沿いの退治が先だってことでな。近場なんだ」
何でもないことのように言うけれど、それはつまり街道沿いに危険が増えていること言うことだ。
領主様直々のお話だから、護衛の1人や2人と言わずに結構な人数だと思うけど……。
中央に行くのに、道中が少し不安になる話だ。
「ターニャ、俺もついていくことに決まった。全員他人だと、お前が疲れるだろうからってな」
「そうなんだ。安心したわ」
本当に、安心した。愚痴の一つぐらい、言える相手が欲しい。
マリウスさんは、そのぐらいは言えるだろうけど、あくまで領主様の部下だもんね。
聞かされても困る話だって、きっとあるだろうし……。
「兄さん、水薬の作り方知ってる?」
「初歩的な奴ならな。飯の後にやろうか」
せっかく違いが出て来た薬草だ。使ってみないとわからない。
そんなわけで、昼からは水薬作りだ。
飲んで良し、塗って良しっていうけど実際どうなんだろう?
わざと怪我するわけにもいかないから、半信半疑って感じよね。
「基本的には、必要な薬草をすりつぶして、水に溶かすだけ。言っちゃえばお茶だよな。ちゃんとした奴とかはもっと本格的らしいけど」
「へー……カスも残らず溶けるのね……謎だわ」
兄さんの話の通りなら、下の方に破片が残るかと思ったのに……全部消えていく。
残るのは色を緑に変えた水。なんだか記憶にあるゼリーみたい。というかまんまゼリー色だ。
違うとは言われないので、これで一応完成らしい。
後は水筒みたいなものに入れるか、少し高いけど水薬、ポーション瓶に入れて持ち歩くんだって。
中身がわかるのは大事らしく、アンリ兄さんも何本かポーション瓶を持っていた。
(さて、じゃあ実験の時間!)
ちなみに、マリウスさんは家の外で見回り中だ。
彼は中央までついてきてくれるんだろうか?って今はポーションに集中だ。
やることは単純。すりつぶすところから何からまで、全部に魔素を入れ込んでみるのだ。
混ぜる時でさえ、である。消費自体は軽い物だけど、この魔法にならないようにするのが少し大変。
お水に薬草だった物を入れる時から、明確な変化が出て来た。
なんというか、濃いのだ。さらに、なんとなーく光ってる。
ポーションの中でキラキラと小さい粒が光ってるのは、もしかしたら魔素なのかもしれない。
普通のが緑なら、深緑ってとこかな? 濃厚!って主張してきそうな感じだ。
「たぶん、毒にはならないと思うけど……ちょっと躊躇するわね、これ」
「我が妹ながら……良い物なのはいいことなのか? まあいいや」
荷物の1つにして、何か機会があれば出して見る、という結論になった。
先送りと言えば先送りだけど、他の物のと違って試しにくいのだからしょうがない。
それからは、あまりかさばらずに手土産に出来そうなものを、ということで色々と準備した。
干物的な物だったり、はちみつの入った瓶だったり。
あっと、肝心な物……着替えとか。
「しっかりお祈りしておこうかしら」
「なんだか帰ってこれないような気分になるから、普通でいいんじゃないか?」
どことなく落ち着かない日々は、1週間ほど続いた。




