GMG-012「この手でお祝いを」
「足跡があった……周囲をよく観察するんだ」
「わかったわ……」
まだ朝晩は肌寒いというより、寒いという季節。
私はアンリ兄さんと共に、森に来ていた。
シーベイラ近くの森なので、ここでもまだ潮の香りがたまに漂ってくる。
山で危ない相手と言えば、熊だ。
もっとも、この世界には他にもいろいろな怪物がいる。
人型のゴブリンだとか、犬っぽい顔のコボルトとか。
中には二つ頭の蛇なんかもいるらしい。
(そんなのに会ったら、さすがに逃げるしかないよね)
魔法があればなんとかなる? いやいや、とっさに使うって難しいのだ。
今も、手のひらで小さく風の力を産み出しては消している。
これで何かあった時に、目つぶしになればという感じ。
「いたぞ。うん、いい体格だ」
「じゃあ足を止めるわね……風縛!」
私の魔素量は、結構多くなっているらしい。
それでも、攻撃魔法に使えるかと言えば別の話。
私自身、火の槍で貫く!なんてのは使いにくいのでしょうがない。
苦肉の策として、考えたのは足止めに使う魔法。
これはお婆ちゃんの記憶からも、強風だと動きにくくなるのを再現したものだ。
「よしっ、これならっ」
勢いよく兄さんが駆け出し、あっさりと足止めを食らっている鹿を仕留めた。
一緒にいた他の鹿は逃げたけど、そのぐらいでちょうどいい。
少人数で振る舞うには、一頭もあれば十分。
そう、姉さんとその家族、私たちが食べるぐらいなら。
(もう結婚式が目の前かぁ)
寂しい気持ちが無いと言えばうそになる。
遠くに行ってしまう訳ではないけれど、家庭が出来ればそちらを優先すべきなのだ。
教会の女手から、別のお家の奥さんになるんだから、当然のこと。
「後は帰ったらやっておく。ターニャは他にも用意するんだろう?」
「ええ。せっかくだし、海の物も用意しようと思うの」
シーベイラは港町。他の場所と比べ、鹿なんかの肉に頼らずに魚肉を食べることが多い土地だ。
普段から食べていると言っても、全部に飽きが来るほどってわけでもない。
祝いの席のための料理の1つぐらいは、あるのだ。
もちろん、姉さんたちだって自分で結婚式のことを考えている。
その中に、私たちの出す枠があるだけだ。
そう考えると、被らないようにしたほうがいいのか、合わせていった方が良いのか。
悩むけど私の中のお婆ちゃんが言っている。真心と、思う気持ちがあればどっちでもいいと。
お婆ちゃんは、主役もそうでないほうもやった人だ……うん、参考にしよう。
気持ちを引き締めた私は、兄さんと別れて1人海辺へ。
教会というか、家によって道具を持ちだすのも忘れない。
「おじさんたちに聞いたポイントはこの辺よね……あ、こんにちはー!」
祝いの席と言えば、尾頭付き!とはお婆ちゃんの強い声。
ちょうど、足元に気を付けないといけないけど釣れる場所もあるのでそちらに向かった。
常連のおじ様たちの間に座り、子供サイズの竿を海へと出す。
これでもお婆ちゃんは結構な釣り好きだったようで、私もその記憶を頼りに手を動かす。
その結果は、おじ様たちに教えることはなさそうだなと言われたほどだ。
もっとも、大物となれば釣りあげるのは大変……だから、ちょっとズルをする。
「姉さんの結婚式があるんです。だから、ちょっと見逃してください」
「そうかい。そりゃあ、いいのを持ってかないとな。なあに、それも腕の1つだ。良い道具を用意するのと変わらない」
ありがたい言葉をもらった私は、さっそく糸に通したままの特製の輪っかを海中に。
自分が魔素を込めて作った輪っかは、離れていても感じられる。
海中で見えないその先は……うまく針が引っかかった大物がいる。
私には見えないけれど、その先端では雷もどきが弾けたはずだ。
途端、厳しかった手ごたえがなくなり、重さだけが残る。
そう、私は糸に通した輪っかを元に魔法を発動させたのだ。
記憶にある仕組みと違い、電気?だったかが伝わる状況じゃなくてもいける。
大人だとしびれるまではいかないぐらいの力だけど、魚には十分。
「よいしょっと……」
「普段ならかなり暴れるやつだからな、身が焼けずに美味いかもしれん」
ぐったりとした姿で釣りあがる尾頭付きの……鯛。
黒っぽいから赤いやつじゃないけど、十分。
そのまま教わった通りに血抜きもして、持ち帰る。
これも今の時期なら、氷で囲んでおけば鮮度も十分だ。
それからも私はいくつかの材料を手に入れ、家に戻って準備をした。
当然、弟たちにも手伝ってもらう。なにせ、お嫁にいくのは我が家の姉、サラ姉なのだから。
翌日、私は家族と一緒に姉さんと、その家族になる人たちを迎えた。
教会で式が始まり、その後には立食形式のパーティーだ。
そこに並ぶのは、様々な料理たち。
実のところ、半分ぐらいは私が関係している。
お肉だったり、魚だったり、あるいははちみつを使った物も。
既に町の料理屋さんには、領主様側主導で作られた遠心分離機とかが出回ってるらしい。
鍛冶職人さんも忙しそうだったのを覚えている。
「姉さん、おめでとう」
「ありがとう、ターニャ。うん、このクリームっていうの?おいしいわね」
笑顔の姉さんのほっぺに白い何か。
それは立派な料理の一部にまで発展した生クリームだった。
ついてるよなんて会話も、思い出の1つ。
こうして私は1人の家族を失い、新しい家族と知り合いになった。




