表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/67

GMG-000「ガール ミーツ グランマ」

ほぼ初めての、女性主人公視点です。

よろしくお願いします。


「……え? ここ、どこ?」


 視界いっぱいの白い霧。

 足元はなんだかよくわからないし、寒くもない。


 慌ててきょろきょろしても、何も見えない。

 なんだか変だなって思ったら、真っ白な服を着ていた。

 お姫様みたいって思ったのは一瞬。


(怖い……だってこれ、死んじゃった時のだもん)


 考え始めたら急に寒くなって、しゃがみこんだ。


 小さな手……私は……誰?

 ターニャ、ターニャだ……。


「お洗濯してて、ごろごろって空が鳴って……」


 そこまで言って、固まった。

 ぴかって、光ったのを思い出したから。


「ふぇ……」


 勉強をあまりしていない私でも、わかる。

 雷に当たってしまったんだ。そして……そして。


「予定にない魂の気配がすると思えば……どなたです?」


「ヒッ!?」


 突然の声に、驚いて振り返ればそこにいたのは見知らぬおじさん。


(し、死神だ!)


「ふむ? ふむう……洗濯中に落雷、と。まあ、運が悪かったですね。予定にないのも頷けます。ようこそ、死者の国へ……と言えたらいいんですけどねえ」


 やっぱり、私は死んじゃったらしい。

 そのまま私は逃げようとして、逃げれなくて……ついに泣き出してしまった。


「ちょっと、勝手に来て勝手に泣かないで……あああ、もうっ。顔が怖いんですかねえ?」


 死神は何か言ってるけど、自分が死んだんだという気持ちが私を襲う。

 もう帰れないのかな? みんなに、会えないのかな?


 もう13になるというのに、小さい頃みたいにわんわん泣いてしまっていた。

 そんな時だ。


「アンタ、なんでそんなアニメの仮面みたいな恰好なんだい」


「え!? あっ、そんな時間ですか! もう、手間取ってる間に時間になってるじゃないですか」


 また知らない人の声。優しそうな声に顔を上げると、死神が慌てていた。

 その横には、お婆ちゃんが1人。

 ということは、このお婆ちゃんも死んじゃったのかな?


「ええっと、そう田中タナエさん! ちょーっと待っててくださいね!」


「なんで私の名前を知ってるかってのは置いておいて、子供が泣いてるのに気にするなってのも無理な話だろう?」


 お婆ちゃんはそんなことを言いながら、今もしゃくりあげている私の前にしゃがんだかと思うと、撫でて来た。


 優しい、とても優しい手。温かい……ほっとする。


「おばあ……ちゃん。だれ?」


 目をごしごしして、問いかけるとお婆ちゃんも困り顔。

 きっと、お婆ちゃんも知らないうちにここに来たんだと思う。


「私かい? タナエって呼んどくれ。90になって、ついに寿命が来たらしいんだけどさ……お嬢ちゃんはどうしたんだい?」


 お婆ちゃんはどこまでも優しい声だった。

 横で何か言いたそうな死神も、なぜかお婆ちゃんには何も言えないみたい。


「お洗濯をしてたら、雷に打たれて死んじゃったんだって。兄妹が待ってるから死にたくないって泣いてた」


「そうかいそうかい……で、なんとかならないのかい?」


「なるわけないでしょう!? ここ、死んでないと来られないんですからっ!」


 驚いてびくっとなったけど、死神が……押されてる?

 どんな勇者も、王様も、いざとなったら命を刈り取るっていう死神が?

 もしかして、死神じゃないんだろうか?


 見上げた私と、お婆ちゃんの視線が絡み合った。

 やっぱり、優しい瞳。安心するのはなんでだろう?


 と、お婆ちゃんが私の首の裏に手を伸ばしてきた。

 なんだろうと私も視線を動かすと、その皺だらけの指に白い糸。

 指ぐらいあるから、糸って言うのはちょっと変かな?


 根元は見えないけれど、それはずずーっとどこかに伸びてて、遠くにつながってる。


「ねえアンタ。この子のこれ、魂の糸とかそういうんじゃないのかい? まだ死に切ってないみたいだけど?」


「ええっ!? あ、さっきまで見えなかったのにどうして……いやでも魂の力が足りないから戻りようがないです。ここまで来るのに半分は使っちゃうんですよ。大人だと余力があるかもですが子供だと……」


 難しいことはわからないけれど、なんだか話の流れが変わってきたのは感じた。

 でも、やっぱりどうにもならなそうってことも。


 思わず、お婆ちゃんの手をぎゅっと握ったら、お婆ちゃんもぎゅってしてくれた。


(あったかいな……弟たちも寂しがってるかな)


「その魂の力ってのは、他から持ってくるんじゃだめなのかい」


「無理ですよ! 魂の力はその人に最後に残された全てなんです! それこそ自分はどうでもいいって人以外……まさか」


 死神が、とても慌てている。

 へそくりが見つかったお店の旦那さんみたい、なんだか面白い。


「代償はなんだい。地獄にいくとか、輪廻から外れるとかそういうもんかい」


「後者です。あなたはあなたではなくなり、その子もその子ではなくなり、新しい誰かになります。もっとも、その子の場所に戻るなら……大人びた子供、ぐらい? そうですね……性格なんかも少し変わるかも」


 何の話をしてるんだろう? 新しい誰か?

 人は死んだら、生まれ変わるってどこかで聞いたことがある。

 このまま生まれ変わるってことなんだろうか?


 よくわからないまま死神とお婆ちゃんを見ていると、お婆ちゃんはこちらに座り直した。

 じっと私を見つめて来たかと思うと、ほっぺたをそっと手で挟まれた。


「名前は」


「ターニャ。ねえ、お婆ちゃん。さっきから何の話」


 ぎゅっと、抱きしめられた。

 こんな風に抱きしめられたのは、いつ振りだろうか?

 兄や姉も、抱きしめてはくれるけどちょっと違うかな?


「ターニャ、いい名前だね。私に似てるのも気に入ったよ。生きて帰りたいかい」


「……うんっ!」


 抱きしめたままだから顔は見えないけれど、きっと真剣な表情。

 私はお婆ちゃんの問いかけに、すぐに応えていた。

 死にたくない、みんなと生きていたい。


「ターニャがそのまま生き返るのは無理なんだってさ。でも、私と一緒なら可能性はある」


「お婆ちゃんと? でもお婆ちゃんが大変なんじゃない?」


 ようやく話が分かってきた。私だけだと、何かが足りない。

 それを、お婆ちゃんが助けてくれようとしてるらしい。

 でも、それはお婆ちゃんの物なんじゃないだろうか?


 そんな私の不安を押し流すように、お婆ちゃんは私を撫でて来た。


「どちらかというとこっちが申し訳ないぐらいさ。ターニャ、自分じゃなくなるんだよ」


「わかった。私がお婆ちゃんで、お婆ちゃんが私……あってる?」


「ええ、ええ。合ってますよ」


 死神を見てそういうと、否定されなかった。

 やっぱり、つまり……1人だと足りない。半分だから半分を2つ合わせて1つにする。


 そんなことを考えていると、お婆ちゃんが急にきょろきょろしたと思うと光った。

 光が収まったところには、さっきまでの白い服じゃなくて、綺麗な服のお婆ちゃんがいた。


「ちょっと、魂の力を無駄遣いしたらだめです。そりゃあ、ほんの少しですけど」


「まるで魔法みたいだねえ」


「魔法、あるよ。わたしはつかえないけど」


 思わず、そんなことを言っていた。

 うん、魔法はある。火の玉を出したり、風をびゅーんってしたり。


「そいつは楽しみだねえ。さ、はじめようか」


「見た目は子供、中身はお婆ちゃん混じり……うん、大丈夫。生きてるならそのほうがいい」


 私も、覚悟を決めた。

 むしろ私の方は、お婆ちゃんに色々貰う側なんだからお礼を言わないと。


 そう思っていたら、後ろから抱きしめられた。

 そのまま、聞いたことの無いお歌……子守歌だとわかるそれを聞いていると、ぼんやりしてくる。


「お婆ちゃん、ありがとう」


「いいのさ。子供は笑顔が一番。あっちでたくさん笑おうじゃないか」


 振り返ることも出来ず、お婆ちゃんの腕の中で笑ってそうお礼を言った。

 お婆ちゃんは、ほっぺたをくっつけながらそういってくれた。


 正面に立つ死神に、私もお婆ちゃんも頷いて目を閉じた。


 ふわりふわりと、何かが自分の体に降り注ぐのを感じる。

 温かい雨に打たれているような感覚の中、そうして私は……お婆ちゃんと1つとなったの。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ