突然の別れ
その翌日。
由佳子は、高橋の部屋へと向かった。
LINEを入れるべきか悩んだが、冷たい素振りをされるのは怖かった。
その代わり、今度こそ晃輝を受け入れる。
何があっても、拒否らない。
その覚悟を決めた。
逸る気持ちを抑えながら由佳子は電車に揺られ、高橋が一人暮らしをしている京都のマンションへと赴いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
高橋の部屋の前で。
息を整え、由佳子はドアフォンを押した。
「……はい」
高橋が、ドアから半身を覗かせた。
「由佳ちゃん……」
高橋は酷く驚いたように由佳子を見つめる。
「晃輝さん……私……」
そこまで言いかけて、由佳子は言葉を止めた。
玄関に、黒いブーツがぐにゃりとその形を崩したまま、脱ぎ捨ててある。
それは、明らかに女性物のロングブーツ。
「晃輝ー、何してんのー。誰が来たの?」
聞き覚えのある女性の声に、由佳子はハッとした。
「……朋美先輩……」
それは、由佳子と同じテニスサークルの一年先輩で、高橋と同じK大学の南朋美の声だったのだ。
無意識に一、二歩後ろずさる。
「由佳ちゃん!」
由佳子は、外へと駆け出していた。
走る。
走る。
走って……
「由佳ちゃん! 待って!!」
高橋が追いかけて来て、由佳子の後ろ手を掴んだ。
由佳子は、溢れてくる涙を見られまいと横を向く。
「ちょっと。そこで話そう」
高橋は、由佳子を目の前のカフェへ誘った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
白いテーブルを挟んで、二人は対峙している。
オーダーしたホットのアールグレイは、とっくに冷めてしまい、その独特の芳香も薄れてきたその時。
「由佳ちゃん」
高橋が、初めて口を開いた。
「別れよう」
高橋の声は乾いている。
「君のように繊細な女の子とこれ以上つきあうんは、俺には無理や。君を益々不幸にする。それがわかったよ」
「だから、朋美先輩とおつきあいするんですか?」
「それは……」
高橋は言葉に詰まり、後の言葉が継げずにいる。
しかし、その緊張感が全てを物語っていた。
「今までありがとうございました」
由佳子は深く頭を下げると、静かに席を立った。
追いかけてはこない高橋を背中で由佳子は感じていた。