prima prima:10 汐里
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今は自分のアパート──
必要なものを持って今日限り、引き払うつもりだ。
サイフ、衣類…大学のものとか…
できるだけ最小限にものはおさえたかった。荷物を全て黒いドラムバッグに詰めた──このバッグでこの町に来たのだが──また、初心に帰った気分だ…
管理人さんにあいさつをして、すぐにそこを去った──
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歩いて10分…それだけの距離。HISAGIの表札を確認して、一度大きな家を見上げてみた──
改めて見ると、シックな造りの綺麗な家だった。
──日本らしくないそのレンガ作りの壁に、装飾のない黒いランプが下がっていて、そのしたにHISAGIと記されていた。
急にランプに明かりが灯されると──HISAGIの字も照らされて、ドアからは鍵をあける音がした──そして私は歓迎されているような気になって、暖かい気持ちで階段を登っていったのだった───
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「ここは最初、ピアノを置こうと思っていたのだけど──いろいろあってね、今はご覧の通り、空き部屋だわ」
部屋には誰も使わないクローゼットと窓が西向きと北向きに一つずつあったが、それら以外には目を引く物はなかった──
しかし、自室にしては、今まで持った中では一番大きくて──とても嬉しかった。
「こんな大きなお部屋…お借りしてもいいんですか!?」
「えぇ、今日からはここが、あなたの部屋。ここに帰ってくるのよ」