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恐怖の理由  作者: 十六夜 八雲
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金縛りの理由

何かがフッと顔の上を通り過ぎていった感じがした。


今日は朝まで眠らないつもりだったけれど、いつのまにか寝てしまっていたようだ。

なんどかチャレンジはしていたが、やはり今回も寝てしまった。


まぶたはまだ開かないが、部屋が明るいのは分かる。

頭も体もまだ眠っている。


スッと部屋の温度が下がった感覚と共に、何かが自分の上を通り通り過ぎて言った感覚に襲われる。


意識だけが敏感に反応し、頭だけが急速に目を覚ましていく。


足元の方――― 部屋の入口のドアの方に誰かがいる。


黒い闇が少しづつ、静かに大きくなっていく。

どこまでも暗く、深い闇のような人影が・・・・・いる。


瞼は開いていない。まだ私の身体は、ドアに背中を向けた形で寝ている。


しかし、その気配がはっきりとわかる。

部屋は明るいが、その闇のせいで明かりが闇にむしばまれている様に薄暗い感じがする。



『―――― 来た。』


背筋や腕に鳥肌が立ち、私の身体もその事を私の脳に伝えようとしている。

でも、脳と体が繋がらない。指先1つも、瞼さえも動かせない。



”アイツ”はいつものようにゆっくりと足元の方から近づいてくる。


近づいて来たら蹴り飛ばしてやろうと思った事は何度もある。。

でも・・・それでも――――


ウ・ゴ・カ・ナ・イ



全身に力が入っているのにピクリとも体が動かない。

瞼だけが少しだけ開く。


『動け! 叫ばないと! はやく! はやく!!』


僅かな視界の端に”アイツ”が入ってくる。


薄暗い部屋に輪郭がぼやけた黒い闇の塊が立っている。


――― 足元の温度が少し下がった。

闇が、私のつま先に触りそうな位置まで来ている。



「んっ!・・・・ぅん!」


声を出そうとするが喉の奥からは、うめき声しか出てこない。

ギュッと目を閉じて、固まっている全身に力を込めて叫ぼうとする。


「・・・・ぅぐ!――― ん! んん!」


声がは出なかったが、ギュッと閉じた瞼はその反動で、完全に開くことが出来た。


いや・・・いつものように、開かされた。


『しまった!』


瞼を開ける一瞬前に毎回後悔している事を思い出すのだが、もう遅い。


「!―――ヒィッ」

肺の奥から吐き出された空気が喉で悲鳴のような音を出す。


黒い闇はいつの間にか私の頭の上の方に移動しており、上から顏のすぐ前でじっと私の目を覗き込んでいた。


その闇と目が合う――― もう顔をそらす事はもちろん、瞼を閉じる事も出来ない。


その暗い闇の顏の部分は何処までも暗く、目や口のようなモノは何も見えない。

ただの”闇”だ。


でも、闇の瞳がじっと私を見つめていて、私の視線と絡み合っているのが分かる。

見開いた瞼は完全に固まってしまっている。


そして、ゆっくりと闇の腕が私の顏の方に、顏の少し下の方に伸びてくる―――――


「んぁ! ・・・うぇ!! ぇ!」


『やめて!』と叫ぶが声にならない。

でも、頭のどこかが”いける!もう一回!”と言っている。


「ん、ぐ――― んぁめてぇ!!」


声が出ると同時に体が動き、跳ね上げる様で体を起こした。


「―― いつっ!」

固まっていた体を一気に動かしたため、体のあちこちの筋が一斉に悲鳴を上げている。

ツッたような痛みで身動きが取れない。


でもその痛みが脳と身体をしっかりと繋げてくれた。



「だ、だいじょうぶ?!美里みさと!!」


誰かが私の名前を呼んでくれた。

急速に頭がさえて、部屋が本来の明るさに戻っていく。


冷たい汗で濡れたパジャマも身体が目覚めるのを手助けしてくれる。


「そっか、里香りか、泊まってくれてたんだっけ・・・・・・。」


「き、来たんだよね? あ、”アイツ”・・・・が。」


「―――うん。でも、もう大丈夫。」


里香には負けるが、精一杯の笑顔を作ってみた(つもりだ)。


ギュッと里香が抱き付いてきた。


「ちょ、ちょっと。もう大丈夫だって。

前からあるって言ったでしょ。もう慣れてるし、ストレスとか疲れがたまっていると誰にでも起きる現象だっていうし―――」


初めて話した私の秘密を、半信半疑なままだが心配して泊まりに来てくれていた里香。

楽しく色々な話をしているうちに、当初の目的を忘れ、話し疲れて寝てしまった里香。


そして、やっぱり来た ”アイツ”


私が金縛りにうようになったのは、高校2年の時からだった。

初めて金縛りに遇った時の驚きと恐怖は今でも忘れられない。


しかし、その後は2ヶ月に1回程度定期的に金縛りに遇うようになり、怖い事は怖いが、だんだんと慣れていった。

原因を色々調べたところ、ほとんどがストレスなどからくる生理現象という話ばかりだった。


両親とも相談し、お祓いをするまえに病院で見てもらうことになった。


診察の結果は、『金縛りの理由は、受験のプレッシャーからくるストレスで、時期に収まる』という診断だった。

まぁそうだろうなと納得しつつも、自分だけがこんなに金縛りに遇う理不尽さと、いつか不幸自慢の話のネタにしようと、前向き(?)に”アイツ”と名付けて付き合ってきた。


慣れてくると金縛りに遇いそうな日は体調が悪くなることもあるが、感覚で分かるようになった。


大学に合格が決まった後も定期的に金縛りは続いたが、不快な気持ちになるのと、寝不足になる以外は特になにも問題は起こらなかった。


入学してからは一度も”アイツ”は現れず、少し忘れかけていたのだが。。



強く抱きしめてくれる里香から優しい香りがする。

私も里香を抱きしめる。


『こんな感じになるなら時々こういうのもいいな―――』


そう、このままでもよかったのに。


このままなら・・・・




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