風邪気味バウムクーヘン
しっとりとしたバウムクーヘン。
そんな感じ。
風邪気味な君。
駅の待合室の冷たいベンチに腰掛けて、大きめマスクから覗く両目はいつもより潤んでいるのにキツめだ。
時々、鼻水をすする音がかわいそう。
「熱は?」
「………」
横に座る私の問いかけを無言で答える君。かわいそう。
コートのポケットに入っていた何の味か分からない飴を君に差し出す。
「………」
君はゆっくりとした動作で受け取ってマスクの中へ収納。
「………トイレの芳香剤みたいな味……」
鼻声の君。
「まずいの?」
「……おいし……」
「………」
かわいそう。
撫で撫で……
「……うっとうし……」
君の髪を撫でる私の手を軽く払いのける君。
………やっぱかわいそうじゃない。
「だる……あと何分?」
「あと10分だねー」
私達が乗る電車はまだ来ない。
「はぁ〜……」
うなだれる君、やっぱりかわいそう。
撫で撫で……
「っ!」
君の熱い頭が私の肩に寄りかかってきた。
「ちょっとだけ寝る……」
「ふ、ふぁい……」
しっとりとした君の水蒸気が私の寒さを癒す。
人目を気にする余裕もない。
ただ、時がこのまま止まってくれたら私は幸せの永遠にいられる。
しんどそうな君の呼吸。
たぶん遠慮なく体重を私に預けているこの加重。
駅のざわめきが遠くなる。
幸せ、幸せ、幸せだぁ。
君がかわいそうなのに私、幸せだぁ。
よしよし……
君が弱っているのをいいことに、君の熱い手を自分の両手で包んで撫で撫で……
「早く元気になってね」
小声で呟いて君の熱い手を私の頬へぴったりくっつける。
私の元気よ伝われ〜、の儀式です。
「……うつるから」
「いいよ、うつして」
私達が乗る電車がホームへ到着のアナウンス。
「来たよ」
「………」
「おーい」
「まだうつしてない」
「………はい」
次の電車まで私の幸せが永遠になった。