Ep.8 フランの趣味
八雲 紫がきた時から半年後、それが恐らく紅霧異変のことだ。
確信めいた言い方ではあるが、間違いではない。それは、後々立証される。
しかし、今回もフランドールとの何気ない1日の話だ。
今日の昼食はサンドイッチと紅茶。フランはサンドイッチのトマトが大好きだというのはかなり前から知っていたため、少し多めに挟んでおいた。
「失礼します、昼食をお持ちいたしました。」
「どうぞ!」
今日はやけにご機嫌な返事が返ってきた。
硬く重いドアを開ける。
最近は慣れたのか、前みたいに開けるのに手こずるようなことはなくなった。
「あ、今日はサンドイッチね!トマトはもちろん?」
「多めに。」
「うんうん!サンドイッチはそうでなくっちゃね!」
配膳して、紅茶をそそぐ。
フランは待ち遠しそうに紅茶で満たされるカップを眺めていた。
「いただきまーす!」
太陽のような顔をして食べる。
かつて外の世界のテレビで見たグルメレポーターの人とは格が違った。
咲夜さんが、レミリアの食事しているときの顔を見ると元気になる、とよくいっているのだが、その気持ちはすごくわかる。
そう思いながら、そばに仕えていると、ふとエンドテーブルの上にある本に目が行った。
・・・漫画?だろうか。
何で幻想郷に、君に○けが?というのもあるが、何よりも吸血鬼のお嬢様であるフランがこういうのを読んでいたことに驚く。
まじまじと本の方を見ていたのに気づいたのか、フランがふふ、と鼻をならす。
「あらあの漫画に興味があるのかしら?」
「・・・いえ、普段は難しそうな本を読んでいらっしゃるので、以外だなと。」
「私も漫画くらい読むわよ。特に外の世界の漫画は面白いわ。」
「その本は前にパチュリーが外の世界の本を召喚したときに出てきた漫画なの。読んでいたらハマっちゃってね、定期的に呼び出してもらってるの。」
この前のキス○ョットといい、○に届けといい、パチュリーは何を召喚しているのだろう?
「もしかして、記憶にビビってきた?」
「え!いえ・・・。」
てっきりこの間の外出の件以降もう忘れているのかと思っていたのだが、どうやらフランはまだ俺の記憶を探してくれるつもりでいるらしい。
気にかけてくれていた咲夜さんでさえ、最近は諦めたというのに・・・。
嬉しいことなのだが、状況が状況なだけに素直には喜ぶことができなかった。
「かれこれもう数ヶ月もたっているのに、あなたの記憶は一向に戻る気配さえもないわねー。」
そういって、またサンドイッチを頬張る。
「あなたはどう思っているのかしら、記憶喪失について。」
とまどう。なにせ記憶がないこと事態が嘘であるからだ。
「なんと申しましょうか、俺はもうこのままでも良いかと存じております。」
「・・・そうなんだ。」
それからは静かに時が過ぎていった。