Ep.6 氷の妖精
霧の湖のとなりには林がある。
別段鬱蒼としているわけでもなく、ただ単にまばらに木々が立っている。そんな林だ。
チルノの子分となった俺たちは言われるがまま林の奥の方へと進んでいった。
結構進んでいるのだろう。湖からだと大きく見えた紅魔館が林の木々によってもうみえなくなってしまった。
「・・・よし!みんなきてるみたいね!」
そこには金髪の子と、緑髪に触角のようなのがある子、鳥?のような格好をした子、そして、緑のサイドテールの子がいた。
みんな少女である。
こうもこの幻想郷の妖怪の少女率が高いのは、効率よく獲物をとらえるためなのだろうか、それとも、力を温存するためなのだろうか?
「チルノちゃん、だーれその人たち?」
サイドテールの子が聞いた。
「大ちゃん、よくきいてくれました!こいつらはあたいのあたらしいこぶんよ!」
「はー・・・。」
「へー。」
「・・・なのかー。」
みんなが呆気にとられたような顔をしている。そんなに珍しいことなのかな?
「チルノちゃん、もしかしてその人たち紅い館の人たちじゃないの?」
ばれてーらペペロンチーノ。
「うん、私は紅魔館のレミリアの妹、フランドール・スカーレットっていうの。で、こっちは。」
「フランお嬢様の執事でございます。」
それを聞いた瞬間、その場が凍りついた。そして、一瞬でチルノ以外が木の後ろに退避する。
「ち、ち、チルノちゃん!早く隠れて!吸血鬼に殺されちゃうよ!!」
ひょこんと木の陰からはみ出ているサイドテールの子から大声がした。
そうだった。
この幻想郷において、力のある妖怪は絶対だ。俺は普段からフランやレミリアと接しているから少し感覚が麻痺していたのだ。
力のある妖怪は、脅威。
それは人間に対してだけではなく、人外に対しても同じ。
フランもそれはわかっているのだろう。
しかし、だからこそ彼女は悲しそうな顔をした。
「なにいってんの、大ちゃん。けらいがあたいをこーげきするわけないじゃない!」
「チルノ・・・。」
フランの顔色が少し明るくなった。
「ほ、ほんとうに襲わないんですか?」
「・・・うん、襲わないよ。」
それを聞いていったん安心したのか、隠れていた子たちが戻ってきた。
「でもなんでフランドール様がここに来ているのでしょうか?」
恐る恐る触角の子が聞いた。
「フランでいいよ。私は、最近きた執事の記憶を取り戻すために外に出たの。その途中でチルノにあって、今に至るって訳ね。」
「そっちの美味しそうなのは記憶喪失なのかー。」
金髪の子が俺に話しかける。
でもなんだ・・・、話すというよりも、目の前の獲物を品定めしているみたいな目付きをしている。
すごく身震いがしてきた。
金髪の子、コワイデス。
「なるほど。それであんなところにいたってわけね。まあ、きおくそーしつだろうが、きゅうけつきだろうが、したっぱなのはかわりないけれどね!」
臆面もなく吸血鬼にそんな台詞を吐けるチルノが、俺には少し神々しく見えた。
「それで、したっぱのしょーかいもしたことだし、あたいたちのしょーかいもしないとね!」
「まずはあたい!ひとよんでさいきょうのようせい、チルノよ!」
次はサイドテールの子が話す。
「大妖精です。身の程知らずでご無礼をいたしました。今後ともよろしくお願いいたします・・・。」
えらく丁寧で賢そうだ。
参謀ってところかな?何かとこの中で不便があれば、大妖精に頼るのが吉かもしれない。
「リグル・ナイトバグです。・・・わ、わたしは食べても美味しくないので。」
触角の子だ。
確か彼女は蛍の妖怪で虫を操るんだったかな?
俺、虫が苦手だからそういう場面に出くわしたら、卒倒すると思う。
「私はミスティア・ローレライ。・・・よろしく。」
鳥の子だな。
確か・・・、どっかの幽霊のご馳走にされる運命なんだよな。
南無阿弥陀仏。
「なんか、変なこと考えてない?」
「べ、別にー。」
「なんかご飯のこと考えてるような顔してたぞー?
あ、私はルーミア。特技は早食い!それにしても、そっちの執事の人、やっぱりすごくおいしそーだなー。」
ルーミアか。典型的な人食い妖怪だ。フランがいなければ今ごろどうなってたことやら。
「しょーかいもすんだところで、これからなにするー?」
みんなの目が泳ぐ。
多分、何かをして、フランの機嫌を損ねるのを怖がっているのだろう。
そんなメンバーをみて、チルノはため息をはいた。
「しょーがないわねー!きめられないならあたいがきめてあげる!!」
「・・・そうね。じゃあ、おにごっこで!」
吸血「鬼」とおにごっこ。
何というかシャレにならないな。
ところで、俺の記憶探しはどうなった・・・。