Ep.4 変身
半年後、それが恐らく紅霧異変のことだ。
確信めいた言い方ではあるが、間違いではない。それは、後々立証される。
しかし、今回はフランドールとの何気ない1日の話だ。
かれこれ幻想郷に来て1ヶ月ぐらいたってしまった。俺は相変わらずフランの執事をしているし、相変わらず記憶喪失だということになっている。
記憶喪失については、最初は館のみんな(レミリア以外)が気にかけてくれていた。しかしで、今となっては咲夜さんとフランが「記憶は戻ったかしら?」と言ってくれるばかりとなった。
・・・ばかり、と言ったが案外気にかけてくれないほうが気が楽である。仕方ない嘘とはいえ、嘘には変わりはない。良心の呵責にさいなまれ続けるというのは、いささか人間にとっては辛いものがある。
そんなこんなで、また今日もフランに昼食を運んでいる。パンとポタージュスープか・・・。
スカーレット姉妹はどちらとも非常に少食である。それに対して俺は結構食べるタイプであり、しかもスカーレット家の意向でレミリアたちとメイド、執事共々同じ食事のため、食費で言えば恐らく俺が一番だ。そのことについてレミリア、フラン、また、そのほかも気にしてないとは言っていたのだが、保護されている身の上で厚かましいなと思ってしまう。
「フランお嬢様、おはようございます。食事をお持ち致しました。」
「入っていいわよ!」
「・・・そういえば、記憶のほうはどうなの?いつまでたっても戻ってくる気配さえもないみたいだけれど。」
「はあ・・・、俺自身もう諦めてますが。」
「ふーん。」
もちろん根本的に嘘である。
「じゃあ、今日はあなたの記憶の手がかりを探しにいきましょうか。」
「ともうしますと?」
「外出しようかしらと言っているのよ。」
「え!?」
「ーというような話をフランお嬢様はされていました。」
「フラン・・・。」
俺から報告を受けたレミリアも驚きの表情をあらわす。
495年も地下にとじこもっていた妹が外に出るなんてことは、内心フランをねこっかわいがりしているレミリアにすれば、朗報に違いない。
しかし・・・、
「ダメ。」
予想外、いや、想定内か。
「どうしてでしょうか?」
「そんなの決まっているじゃない。かわい・・・げふんげふん!愚妹が外出してみなさい、危険じゃないの。」
「どちらがでしょうか?」
「それはもちろん、フラn・・・んーーー!!?じゃなくって、低級どもにきまっているでおじゃる!」
妹がかわいすぎて口が滑ったあげく、口調まで変わってしまったフランはいった。
実際のところ、フランは誰に襲われようが、返り討ちにして無傷で帰還できる実力はある。
しかし、レミリアにとってフランが襲われること自体が「危険」であり、そんな危ないことがある外なんて行っちゃダメ!ということなのだ。
それでも、フランが外に出たいといっていることに関しては非常に嬉しく思っているようだった。
「ーとレミリアお嬢様は申しておりました。」
フランはレミリアに可愛がれていて嬉しいと、外出してもらえなかったので、照れながら頬をふくらましていた。
「もうお姉様は・・・、心配性なんだかんだら。私だって立派な吸血鬼なのよ。」
実にほほえましい。
「して、どういたしますか?俺は別に記憶を探しにいかなくても、心配ございませんが。」
「ううん、こうなったら強行突破よ!」
「ちょっと向こうむいてて。」
「かしこまりました。」
フランに言われるがまま扉のほうへむく。
すると、一瞬強い光が背後からさした。
「フランお嬢様?」
「もういいわよ、こっちむいて。」
振りかえる。
「おお!!・・・おぉ!??」
「どうかしら!」
そこにたっていたのは、年端のいかない少女ではなく、見違えるほどに成長したフラン(?)だった。
いや、なんというか、異常なほど美人だった。
しかし、大人フランの着ている赤いドレスに違和感を覚える。どこかでみたような・・・。
「お嬢様その格好は?」
「この前、パチュリーが召喚した外の世界の本にこんな感じの赤いドレスを着て長い刀を持った吸血鬼の女の人の絵があったから真似してみたの。変かしら?」
なるほど、 この前、パチュリーが召喚した外の世界の本にこんな感じの赤いドレスを着て長い刀を持った吸血鬼の女の人の絵があったから真似してみたのか。
何を召喚しちゃってんの、パチュリー!?
多分、某物語の 鉄血 にして熱血にして冷血の吸血鬼さんだよな?
「・・・いえ、すごく似合っております。」
何しろ成長したせいで、髪も長いし女性らしいため、まさしく、某吸血鬼ぽい。いや、見た目で言えばもうそんな感じだ。
「これで不用意に襲ってこないでわよね!さあ、強行突破よ!」
これでいいのか、幻想郷。