別れ
「え?」
僕は現状が理解できずにいた。だってそうだろう?意味のわからないことの連続だ。異世界に召喚され、捨てられて、レベルの違いすぎるモンスターに襲われて。その末にやっと掴み取った大切な人たちが帰ってきたら殺されていた。さらにはこれだ。意味がわからない。
「大、丈夫か?タイ、ガ…」
「親父!」
僕をかばって致命傷を負った親父が、倒れた。
「親父!」
再度呼びかけるも反応してくれない。見ると、庇いながらもガードしたようだった。しかし、それは意味を成さず大剣を貫通し、心臓を貫いていた。
「そうだ!メニュー!スキルポイントを使って回復魔法を覚えろ!速く!」
ーーー《了承できません》
「ふざけるな!速くしろ!」
ーーー《出来ません》
「なんでだ!?」
ーーー《ここで回復魔法にスキルポイントを使ってしまうと生き残れる可能性が限りなくゼロになります》
「僕はどうでもいい!親父を助けろ!」
ーーー《出来ません。致命傷です。もう助けることは出来ません》
その言葉が胸に突き刺さる。手遅れ?助けられない?ここは異世界だろ!?なんで…なんでだよ…。
「タイ、ガ。生き残れ…幸せに生きろ。ルナを頼む…すまない」
そういって親父から力が抜けた。
「まだ…まだ僕は…恩を返せていない…!」
だったら最後の願いを叶えよう。それが僕の…親孝行にする。先ずはここを生き残り、ルナを探す。全てはそれからだ。
「よお、ご親切に待っててくれたみたいだな」
何故止まっててくれたのかは分からんが有難い。
「メニュー。勝つぞ」
ーーー《了解》
僕と魔狼は同時に走り出す。
まずは思考速度加速!身体についてこなかった思考速度が追いつく。しかし、まだ足りない!
ーーーメニュー!守備力を最低限にして速度に振り分けろ!
さらに加速。これでやっと追いつける。魔狼が手を振り下ろす。僕は避けるとともに腰に下げていた空気に触れると爆発するポーションを置いていく。
「ギャウ!?」
魔狼がポーションを踏み潰し、肉球の下で爆発が起こる。その足に接近し、剣を振り抜く。
「くっ!?」
が、その前に逆の足が飛んでくる。転びながらもなんとか躱す。さらにそこに追撃が来る。
「ふっ、はっ!」
高速で攻撃が飛んで来るが躱し続ける。一発でも当たったら即死の状況の中で、一度も当たっていない。
だが、転がりながら避けたり、飛んで来る石などに当たり、傷が増えていく。
対して僕は決定的な攻撃を当てられていない。
「くそっ!」
何かないか…。なにか!
ーーーメニュー!ポイントを使って思考速度を上げろ!
ーーー《…完了しました》
仕事が早い。さらに思考速度が上がり、考える余裕が少しできる。
ーーースキルポイントを使い何か獲得しろ!
ーーー《わかりました。………限界突破、剣術スキル、短剣スキル、身体強化、全魔法を獲得します》
『限界突破、剣術スキル、短剣スキル、身体強化、全魔法を獲得しました』
『蓄積された経験値を確認。レベルが上がります』
『全魔法が進化し、魔導になりました』
メニューとはまた違った声がする。次の瞬間身体がまたも熱くなる。
「身体強化!限界突破!」
身体がオレンジ色に染まる。同時に文字通りに身体の限界を無視して使っているのがわかる。身体中が悲鳴を上げている。長くは持たなさそうだ。
「シッ!」
魔狼には僕が消えたように見えただろうか?一瞬で背後に回り、一瞬で同じ場所を斬りつける。
「グオオオ!?」
尻尾を切り落とされ悲鳴をを上げる魔狼。だが、まだ止まらない。もう一度尻尾を切り落とそうかと思ったが反応される。
「ちっ!」
一度離れる。
「これで決めてやる」
先ずは魔導に含まれている火魔法で攻撃。
「バーニングレイ!」
紅い光線が魔狼へ伸びていく。しかし、黙ってやられる魔狼でもなくジャンプで避けられる。
僕はニヤリと笑う。それを狙っていた。
今度は土魔法で着地地点を陥没させる。驚いた様子で落ちていく。さらに魔導に含まれている重力魔法、グラビティ。
「ウォーターボム!ウォーターボム!そして、ライトニングボルト!ライトニングボルト!ライトニングボルト!ライトニングボルト!」
水と電撃を同時に撃つ。
「ファイア」
小さな火の玉が飛んでいく。そしてーーー
ドガアアアァン!
穴の中で大爆発が起こる。
僕がやったのは水に電気を流すことで水が電気分解させる。そして生まれるのが水素と酸素。そこに火種を入れることで大爆発が起こる。さらには酸素も奪えるので、呻き声を上げた瞬間、呼吸をしようとしても出来ない。
「……」
やったか?
穴の中を見てみるとピクリとも動かない魔狼が横たわっていた。一瞬フラグかと思ったが安心した。
「勝ったか…」
『レベルが上がりました』
お、レベルが上がった。だけど素直に喜べない。こんな状況じゃあな。
「ルナ…」
そうだルナを探さないと。
ーーーメニュー。気配感知でルナの居場所がわかるか?
《はい。まずはーーー》
さすがだ。僕じゃまだ使いこなせない。
メニューの言う通りに進んでいくと洞窟の中でも見つかりにくいところに倒れていた。最初ヒヤッとしたがしっかりと息をしていた。
「よかった…。ルナ。ルナ起きろ」
「う、んん…。ここは…」
肩を揺さぶりルナを起こす。
「見たところ洞窟の中だが、ルナは覚えてないのか?」
「そうだ…。父さん…父さん!兄さん、父さんは!?」
「親父は……死んだよ…」
「そんな…うそ…」
うそじゃない。僕のせいと言っていいだろう。
「ルナ。何があったか教えてくれ」
「…わかった。門を出て兄さんを見てたら急に父さんが焦り出して、私を気絶させたの。でも、とても強い魔物の気配がしたから討伐に行ったんだと思う。私も一緒に行こうと思ったけど…」
「そうか。親父はーーー」
僕はありのままの事を話した。僕の身代わりになってしまった事も、すでに僕が倒したことも。
「そっか。流石兄さんだね」
そう言ったルナだったが
「また…私だけ何も出来なかった……!また……!何の役にも立てずに!私なんて…いても意味があるのかなぁ…」
そう言って泣き始めるルナ。
「…ルナ」
ルナがびくりと震える。
「あのなルナ、僕はお前が生きていてくれて嬉しかった。あの時、お前があそこにいなくてよかった。僕はお前がいてくれたおかげであいつに勝てたし、これからも生きていける。僕は、ルナが生きているおかげで僕は生きていけるんだ」
うまく伝わるかはわからないけど、口に出す。
「だから、お前に価値がないなんてことはあり得なよ」
僕はルナを抱きしめて頭を撫でる。
「…ありがとう」
そう言ってルナは再び眠った。
「僕も…限界…」
限界突破の代償かわからないが、意識を保つのが限界になり僕も眠りについた。