開花!
訓練を始めて、さらに一年。
みんなに鍛えてもらい、普通ではありえないスピードで成長できたと思う。普通では感謝すべきなんだろうけど…。素直に感謝できなかった。
それは…
「タイガァ!スピードが落ちてるぞ!」←親父
「調合している手を止めるな!爆発するぞ!」←薬屋の親父
「魔力が乱れてるよ兄さん!集中して!」←ルナ
「おい!【ファイアーボール】が大きすぎる!これじゃ焼き過ぎちまうだろうが!」←料理屋のおじさん
「こっちは【ウインド】か弱過ぎる!これじゃいつまで経っても乾かねえぞ!」←隣の家のお父さん
「タイガちゃん。こっちにもお水ちょうだいな」←もうひとつ隣の家のおばあちゃん
「うううううぅぅるうううううぅぅせええええぇぇ!」
なんなの本当に!
親父に体力作りのために走らされ、さらにその状態で調合させる薬屋の親父。しかも一定の魔力を体に纏いながら料理屋の火を作り、隣の家の布団を乾かし、さらにおばあちゃんの喉を潤すために【ウォーター】で水を入れる。
僕は何をやってるんだ?
あっ、しまった余計なことを考えて集中が途切れた。その時、調合中の液体がぶくぶくと泡立ち、そしてー
ドゴオオオン!
『ボフン』なんてかわいい音などではなく大爆発。ドクロの煙が出る。ゴロゴロと転がって木にぶつかり、やっと止まる。
体中が痛い。火傷も負っているようで身体中が痛いし熱いし、口の中がまずい。
「兄さん!」
ルナが心配してこっちに向かってきてくれる。あぁ、本当に優しいなぁ。
「【オメガヒール】」
身体が光に包まれ、痛みが消えていく。
「助かったよル「次、頑張ってね!」
そう言ってルナは去っていった。
いや、違うんだ。最初はルナも心配してくれてたよ。でも、親父が『これも全てタイガのためなんだ…!』って言ったら何もしなくなった。回復はしてくれるよ。けど、さらに訓練が辛くなった。
クッソおおおお!やったるわい!
「まだまだああああああああぁぁ!」
☆★☆★☆★☆★
「そろそろタイガも外に出ても大丈夫かもしれないな」
「っ!そ、外って村の外のことか!?」
「ああそうだ」
ま、マジか!ついに外に出られるのか!
「そんなに嬉しいか」
「ああ!約ニ年前のリベンジだ。ボッコボコにしてやるよ」
もうけちょんけちょんのペコペコのデコボコにしてやる!
「それはそうとお前口悪くなったなー」
「えー唐突」
「それはお父さんの喋り方が移っちゃったんじゃない?」
「うわ、なんかやだ」
「なんだとてめえ!昔はあんなに礼儀正し買ったのによお!」
「…人は…変わっていく生き物だぜ…?」
「なぜ最後?をつける」
「とにかく!話が脱線したが、外に出てもなんとかやってけるくらいにはなったんだな!?」
「その通りだ。今までよく頑張った」
「おめでとう。兄さん」
「…ありがとう」
あぁ、今までの日々を思い出す。毎日力尽きるまで走って、その後回復されて走って。さらに途中から爆発まで浴びるようになって…。でも、努力は報われたんだなぁ。
何故だろう。嬉しいはずなのに、涙が…。
「なーに泣いてやがる。今まで頑張ってきただろ、当然の結果だ」
「ああ、そうだな。これからも頑張るよ」
努力は報われ、さらに強くなる決意をした僕。しかし、それは唐突に訪れた。
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《スペシャルスキル【メニュー】を習得しました》
《ユニークスキル【そうぞう】を確認。【メニュー】との同期を開始します。………完了》
《ユニークスキル【そうぞう】が開花しました》
《アルティメットスキル【創造】を習得しました》
《ユニークスキル【想像】を習得しました》
《蓄積された経験値を確認。スキルを習得します。スキル【創造】の介入を確認。蓄積された経験値はSPに変換されました。詳しくは【メニュー】を確認下さい》
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「は?」
いや、ちょ、ま…は?
「なんだ今の…」
「どうしたタイガ」
「大丈夫?」
「あ、ああ大丈夫」
まずは整理しよう。最初なんて言ってた?【メニュー】を習得?何故?今さら?などの疑問が湧き上がってくるがとりあえず使ってみないことには何もわからない。
「スキル、【メニュー】を発動」
『Hello My Master.』
「うお!」
「さっきからどうした」
「【ヒール】!」
「ごめん。説明してなかった僕が悪かった。だからルナ、僕の頭にヒールをかけるんじゃない。正常だから」
そう言ってルナに止めさせる。地味に傷ついたぞ…。
「なんか急にスキルゲットした」
「なに!?」
「え!え!ほんと!兄さん!」
2人が驚くのも無理はない。僕は今までスキルを手に入れたことはなかった。鑑定してもらったところステータスも変化なかったし。
「ああ。スキル【メニュー】が手に入って、前から持っていた【そうぞう】が開花したらしい。えーと、それで、【想像】と【創造】をゲットした」
「ふむ、聞いたことないスキルだな」
「すごい!兄さん!」
「とりあえず使ってみるわ。【メニュー】」
《なんでしょうか》
また声がした。
「誰だお前は」
《スキル【メニュー】に含まれるAIです》
「AI?」
《はい。これからはマスターの補助をさせていただきます》
「…そうか」
よくある、チュートリアルや大賢者とかと一緒かな?
「【ハイヒール】!」
「ごめん。ほんとごめん。説明するからやめて」
またもルナが頭に回復魔法をかけてくる。しかもさっきより高位の魔法を。
「タイガ。お前…」
親父が僕のことを可愛そうものを見る目で見つめてきた。
「くらええぇ!」
「うお!?あぶね!」
ファイアーボールを放つがかわされる。ちっ!
「お前俺とルナの扱いの差が激しすぎるぞ」
「親愛の証だ」
「そんなの嫌だ」
「ルナは可愛いからしょうがない。話を戻すが、【メニュー】のスキルにはAIがあった。さっきはそれと会話してたんだ」
「「AI?」」
「あー人工知能、違う。簡単に言えば……身体を持たず、意識だけ存在し、僕を助けてくれるらしい」
「そんなスキルがあるのか。だが、何故今更なんだ?それが分からん」
「スキルに聞けないの?」
なるほど。やってみよう。
「なんでなんだ?」
《それはマスターの魂が予想以上に強大だったため、同時に転移した者たちに合わせてしまった結果、誤作動が起こってしまいました》
「僕の魂が強大だった…すごいめんどくさいんだけど」
「しょうがないだろ。早くろ」
《なら、【念話】スキルを習得し、【メニュー】と同期させれば、より円滑に会話を進められます》
「は?できるの?」
《イエス》
「ま、マジか…」
そんなに簡単にスキルが習得できるのか。チートだな。
「悪い、二人ともちょっと待ってて」
《マスター。声に出さずとも会話はできます」
ーーーマジで。
ーーー《イエス》
ーーーじゃあどうやってやるの?
ーーー《その前にまず、【想像】をご使用ください。【想像】に含まれている【思考速度上昇】スキルを起動させててください。より短時間での、ステータス操作ができます。なおーーー》
ーーーわかった。【想像】発動。
その瞬間思考速度が一気に引き延ばされる。
ーーーっ!ぐあああああぁああ!?
頭が割れるように痛い!なんだこれは!?幾万幾億の映像が流れる。それはこれからの出来事のあらゆる可能性を想像しているようでーーー
ーーー《申し訳ありませんマスター!すぐにスキルを強制終了させます!》
映像が止まり、痛みがすぅーと消えていく。
ーーーおい…なんだ今のは。
ーーー《も、申し訳、ございません。ス、スキル【想像】の主作用です。本来【想像】はこれから起こるあらゆる可能性を想像、計算するスキルです。それを補助するために【思考速度上昇】といった思考系のスキルが統合されております。ですが、それを以ってしても脳が追いつけなかったようです。申し訳…ございません。ど、どうか!捨てないで…!》
ーーーわ、わかったから!落ち着け!捨てたりなんかしない!
【想像】を使うのはきっと56×42×801×75×26×189を強制的にやらせるようなものだろう。感覚的にそんな感じだった。脳に負荷がかかりすぎる。
ーーー《あ、ありがとう…ございます》
それにしてもこいつの同様っぷりは少し異常のような気もするが…。まあいい
ーーー頭が割れるような痛みの理由は分かった。そういえばあの時、スキルを強制終了?させてなかったか?
ーーー《はい。スキルを同調させているので、可能です》
ーーーそうか。ありがとうな
ーーー《い、いえ!当然のことです。では話を戻しますが、今度は【思考速度上昇】のみを使うようなイメージで行なってください。次は私も補助しますので、比較的安全かと》
ーーーわかった。
イメージかぁ。まあ僕は地球にいるときに予習はしておいたからね。大丈夫だろ!