初仕事
次の日の朝、起きて宿で出される朝ごはんを食べ終わり、仕事に行く準備をしていた。
「な、何がいると思う?」
「兄さん、全部イベントリの中に入るでしょ」
そ、そうだった。今じゃほぼ無限に入るんだもんな。全部持っていけばいいよな。
「め、メティス。なんか気をつけることとかないかな?服装とか2人から見ておかしくない?」
「緊張しなければ大丈夫だと思うよ?」
『いつも通りでカッコいいですよ』
緊張…緊張しない。大丈夫、大丈夫だ。
「なんでそんなに緊張してるの?」
「え?だって……」
なんで?え、あれ?そういえばなんで緊張してるんだ?確かに人生で初の仕事になる。そこは緊張するだろうけど、昨日行ったし。
「うん、なんか受付嬢とか冒険者たちのことを思い出したらべつに大丈夫っぽいわ」
「ふふっ、じゃあ行こっ。兄さん」
「おう!」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「あっ!おはようございます!」
「あっ、おはようございます……」
ギルドに入ったらすぐに昨日の失礼な受付嬢が元気に挨拶してきた。朝から元気だなぁとは思うけど僕の中で印象は良くないので、そのせいか『うるせえ』と感じてしまう。
「仕事ですか?」
「はい、でもどうやったらいいかわかんないんですよねー」
「ああ、すいません。説明をしてませんでしたね。よろしければ私がしましょうか?」
「……お願いします」
ぶっちゃけ嫌だなぁ。他のところに行きたい。けど今更知らない人と話すのは怖いし、善意の申し出を断るなど出来ないのでしょうがない。
「では、依頼の受け方についてまず説明します。
あそこに依頼書が貼ってあるのでそこから取って受付に持ってきてください」
「……それで?」
「え?討伐でも護衛でも行ってきてください」
うん、それはいいけどもうちょっとなんかあるでしょう。ランクとかルールとか。
「あ!けど冒険者ランクが低いと受けられない依頼などがあるので気をつけてくださいねっ!」
「冒険者ランクとは?」
「冒険者のランクです」
「…………」
「え、えと、FからSSSまで分けられていて、自分の2つ上のランクのクエストまで行けるようになっていますが、よっぽど自分より高ランクのクエストなんて行かないですね」
「わかりました。ありがとうございます」
「当たり前のことです!」
受付から離れて依頼書が貼ってある(今後は依頼板と呼ぼう)に行き、沢山の紙が貼られているのを見上げる。
うん。仕事の仕方を覚えるのに予想外に疲れた。今後は緊張したとしても他のところに行こう。
さて、なんのクエストに行こうか。今の俺たちはFランク。これより2つ高いDランクのクエストでもボブゴブリンの討伐とかそんなモンのやつだ。
「何のクエストにしようか」
「出来るだけ報酬の高いやつにする」
「そうだな。出来るだけ早く金を集めたいよな」
効率重視。もっとも早い手順で最高の結果を叩き出す。
「なら別々に依頼をこなした方が早いな」
「そうだね。じゃあ私これ行ってくるね」
「おう…」
ルナはそう言って受付に歩いて行き、少し言葉を交わした後でギルドから出て行った。
……もうちょっとさ、こう『お兄ちゃんと一緒がいい!』とかないのかね。ほんの少しだけ期待したのに。お兄ちゃんは悲しいよ……。
はあ、切り替えないとな。
効率重視なら……アレのついでにこれも取ってこれるか?いや、ダメだ。報酬が低い。他のところでも取ってこれるのか?マップのスキルとメティスが居れば簡単に採取とか出来るかもしれないし……。いや、やっぱり難しいな……。
「ねえ、ちょっとアンタ」
「ん?」
後ろから声をかけてきたのは赤髪の少女だった。なんだか勝気な印象を受けるような鋭い目をしており、顔が整っていて……俗に言う美少女だ。
「依頼を探しているの?」
「ああ、どうすればいいのかわかんなくてな」
「しょうがないわね。私たちのクエストに一緒に連れて行ってあげるから来なさい」
「おっ!マジで?ちなみに何処に行くの?」
手伝ってくれるなら有り難い。悩んでいたのは土地勘だったんだよなぁ。マップがあっても、脳の処理能力が追いつかなくなる。それに洞窟の中に生息する……とか難題だった。
「迷いの森よ」
「なら、コレとアレも受けて行こう」
「ちょっ、そんなに受けるの?」
「金が必要でね」
「そう……深くは聞かないでおくわ」
「名前を聞いても?」
「レイシア・ライハートよ。ちなみにクエストを受けるメンバーはもう1人、妹が居るわ。今は外で馬車を見つけてる。あなたの名前は?」
「タイガだ」
苗字は言わない。何故なら僕が生きていることがバレないように。
僕はアイツらを許した訳じゃないからね。生きていることがバレたらめんどくさい事になりそうだし。
その内会いに行くよ……。
「そう。なら行きましょう」
「了解」