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斉故堂便り

作者: 有里純

過去の遺産の改訂


通勤路に「西湖堂」というパン屋があったのです。

 

 ……どこからお話しましょうか。順序としては、私の体調というか体質から、お話しをした方が良いのでしょうね。


 私は小さな頃から身体が弱く、喘息持ちということもあり、入退院を繰り返していました。ですから、「その事」に気が付いたのは、つい最近なんです。入院中には、同室者にも同じような方がいましたから。

 私にはそれが「他の人とは違う事」だとは、分からなかったのです。


「あ、いらっしゃい。今回は期間、結構開いたね」


 入室の声もなく、障子がからりと開きました。部屋の中に入ってきた男性。その方に、部屋で横になっていた私は声をかけました。声がかかるとは思ってもいなかったのでしょう。男性はびっくりされ、文字どおり飛び上がってしまいました。


「あ」

「あ」


 私と男性は同時に呟き、部屋の天井と床、対角線上でお互いの顔を見つめます。


「び、びっくりさせないで下さいよ。こう見えても私、怖がりなんですから」


 いかつい顔、体育会系がっしり筋肉質な体型でそんな事を言われても信じられなくて、私は口を手で覆い、ククッと笑ってしまいました。


「ごめんなさい」

 私は、男性に笑ってしまった事を謝りました。しかし、男性の見かけとうらはらなギャップに、止めようと思う笑いはなかなか止まりません。悪いとは思いつつも、クスクスと笑い続けてしまいました。

 そんな私から男性は、バツが悪そうに顔を合わせないようにと、そろりそろりと天井から降りてこられました。

「いいんですけどね。私も、何も言わずに入って来たのが悪いんですから」

 私の向かいに座られた男性の顔は、耳まで真っ赤となっています。私と顔を合わせないようにと、首を捻り、男性は壁を見ておられます。

「ご、ごめん」

 私はといいますと、未だに笑いが止まりません。

 そんな私を見て、男性はスイッと見えなくなりました。


「いい加減、笑うのを止めて下さいね」


 そう、言葉だけが、聞こえてきました。


「うん、ごめん」

 言葉が聞こえてきた場所にむかって、私は小さな小さな声で謝り、すっと頭を下げます。


「これからは、あなたに声をかけてから、入る事にしますね」


 もう一度、最初からやり直しとでもいうように、男性は部屋の外で障子をカラリと開け、私に言いました。

 私はと言いますと、目の前に現れると思っていた男性が、部屋の外にいることにびっくりしてしまい、何も言うことが出来ません。ただただ目を見開き口をぱっくりと開け、男性を見つめるのが精一杯です。


「先程の仕返しです」

 男性はすました顔で言われると、静かに部屋の中へと入って来られました。


続きそうで続かない。

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