記憶をなくした男 その4
舌が唸る朝食をいただきながらイカロスは話し出す
「今日行くのは森の入り口周辺だ、ああは言ったが実力ははっきりさせておきたいからな。」
「確かに、私が今どれだけ戦えるのか私にすら把握できていないからな。」
改まった顔で言葉を返す。
「行くのは入り口周辺だが、それでも危険な怪物もいる。と言っても俺も最近は森の中部あたりまでしか移かんし、入り口あたりで苦戦するようなら荷物持ちでも十分だ!」
ニカッと笑って話すイカロス。そこまで気を使わなくてもいい、どんな事があろうと森の入り口で躓くようでは自分の使命は果たせそうにないのだから。
馬車に乗り込む前にイカロスから必要最低限の装備品が渡された。必需品の入った大きめの革製ウエストポーチ、、はぎ取る時のナイフ数本。
「後は逸れた時ようにこいつだな。」
そう言って渡されたのは大きめの腰の後ろに着けるホルスターと大口径の鉄筒であった。
「こいつは南東の大陸の一つ、ズーペンという国の鍛冶屋が作った”銃”つうもんだ。と言っても大昔に生産された超旧式で、未だに薬莢に火薬やらなんやら詰め込むんだけどよ」
初めて見る物だ。今まで見てきたものはこんな風には思ったことがない。
手に取って興味深く観察する。銃身の中央に亀裂が入っていいて、そこを開くとぱっくりと開く。そこにイカロスから渡された円柱の”薬莢”なるものを入れ、銃身を閉じて、引き金を引くと前方20mに煙を打ち出す。そんな品物らしい。
「それで何かあったら信号を送ってくれ、すぐに駆け付ける。後薬莢は使いまわしするから捨てるんじゃねぇぞ」
こちらを顔を見ながらニヤニヤ笑うイカロス。そんなに面白い顔をしていたのかと我に返るが、それにしても魔力を使わない道具というのは初めて見た。
馬車に乗り込み動き出す。そらを見上げる少し明るくなっている。もうすぐ日の出だろうか。イカロスは調子の良い鼻歌を歌っている。こうして空を見上げているとなんだか懐かしい。
調子のいい鼻歌と風を切って走る馬車の音、そして目の前に広がる草原と森の向こうか差し込む黄金の光。
「おぉ、ようやく朝って感じだな」
鼻歌をやめてイカロスはつぶやく
「ほら前を見てみろ、あれが今日行くアトランタの森だ。」
またイカロスは鼻歌を歌いだすのだった。