表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

【8】嵐の前には雨

翌日。


カラリと晴れ上がった朝の天気予報は、雨。


どこに雨の要素が混じるのだと問い詰めたいが、前線と低気圧の動きが活発で、一気に変わるのだという。朝の空に騙されないように、とお天気キャスターは言っていた。


「今日もMac貸りるよ」宗像はノックもそこそこにやって来る。


「ドアは閉め切るな」


慎一郎の言にぴたりと手を止め、宗像は顔を上げる。


「何で」


「いつもそうしている」


「えー、すきま風寒いだろ。僕は寒い!」


宗像はバンとドアを閉め切った。


「理由を聞いたことあるけど、お前の在室を知らしめる為とかなんとか言ってたっけ。それ、まだ続けてんの? 何でも女子学生ともめたって噂、あれ本当だったのか」


自分という男の来し方を思うと、どうしても良からぬ過去が悪さをしているようで仕方がない。


「モテる男は大変だねー」ちくりと宗像は言う。



放っておいてくれ。



「お前はいつまでここに居座るつもりだ」


「来年、着任するまで」


「何だと」


慎一郎は憮然とした顔をする。


「うちの学校、今、手頃な部屋がないんだってね。横山さんが使ってるところが空いたら使わせてもらえるようだけど、まだまだ先のお話だからさ。あー、やっぱり図書館行けって顔してるな? わかってる、でもさ、あそこだと仕事できないんだよねえ、やっぱ。表に出せない作業はここでやる。ボクの机、入れるスペース空けといてね。近々、総務から話が行くと思うよ」


そう言いながら、宗像はMacに電源を入れた。


「あとであんたの予定、教えて。僕のはスケジュールボードに書き込んでおくから。はい、決まりー」


「勝手に決めるな」


「だって慎一郎、君は自分のこととなると何でも後手で、保守的で遅いんだもん。第三者がケツ叩かないと人並みに動かない。秋良ちゃんとのことも、俺たちのおかげで今があるようなもんだろ」


ぐっと言葉に詰まった。


秋良に見合い話が出た時、二の足を踏む慎一郎の背中を叩いて後押ししたのはカルテットの三人だった。旧友達が言う「後悔するぞ」は骨身に染みた。


「感謝してよね」


さあ、仕事仕事と、宗像はまるで自分が部屋の主のような顔をして作業に没入していく。


慎一郎は仕方なく、埃被って満足に使われていないホワイトボードを拭き、今日の欄に予定を書き込んだ。


午前は講義。午後は丸々空いている。もしかしたら秋良が立ち寄るかもしれない。



食事にでも誘うか。水流添家へ寄るか。

――外食だ。間違いなく。



「私はこれから講義だ」


「うん、行っといで。留守はまかせて」


「長く席を立つ時は鍵をかけろ。合い鍵を手配しておく」


「大丈夫、もらってある」


ちゃらり、とキーケースを振る宗像に、手回しだけは良い奴だと呆れて、彼は部屋を後にした。



そういえば。


今朝は三浦も彼女の息子も来なかったな。



たまにはこんな朝も悪くない。


慎一郎は廊下を往く。彼の断髪をまだ知らない学生や関係者の好奇な視線はあっさり無視して。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ