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思惑の繋がり

作者: 愛染ぬこ

私には親友がいた。


彼との出会いは中学校。私は転校生で、たまたま彼の家が近くにあった。


彼は運動神経がよく、スポーツの類では人気者だった。


対する私は彼ほどではないが運動はでき、体育の時間などを通して親しくなっていった。


学力に関しては私の方が上であったので、彼はテストが近づくと私に頼るようになった。


最初は憧れだったのかもしれない。


彼はどんな人にでも分け隔たりなく接していた。


私とて例外ではない。


私は人見知りで、人と喋るときは挙動不審になる傾向にあった。


だが彼はそんな私に優しくしてくれた。私はそのことがとても嬉しく、彼に惹かれていった。


私も彼のように輝いた存在になりたかったのだ。




気づけば私と彼は親友になっていた。


親友の定義なんてわからないが、私たちはお互いを親友だと認めていた。


遊ぶときも、学ぶときも、どんなときだって彼と一緒だった。


私と彼は似たような境遇にあった。私の親は本当の親ではなく、私を愛してはくれなかった。対する彼は捨て子であり、施設暮らしをしていた。


お互いに本当の両親がいない、愛情を感じることは一度もなかった。私たちはお互いを似た者同士と錯覚していたのだ。


私たちは自他共に認める仲良しだった。廊下を歩けば肩を組み、給食を食べるときは好きな物嫌いな物の交換をしたりしていた。


あるとき友人にからかわれたことがある。


まるで恋人同士のようだね、と。


私は焦った。彼と私は親友なのだ。


私と彼との間にあるのは確固たる友情である。


きっと彼は友人の言葉に呆れているか、怒っているのではないだろうか。


私は恐る恐る彼を見た。


私は驚いた。


彼は困ったように笑っていたのだ。


その表情に私の目は釘付けだった。


そんな彼との別れのときが来た。


中学校の卒業式、私は絶望していた。


彼と離れ離れになる。もう彼と一緒にいられなくなるのではないだろうか。私の心は不安でいっぱいだった。


所詮、中学生同士の友情など簡単になくなるものだろう。そう私は常々考えていた。だからきっと彼ともそうなる。前々からそう思っていたのだ。


だが別れが今か今かと迫り卒業式を迎えた。


結果、彼との関係は切れてしまった。




月日が経ち、私は高校三年生になった。


この月日の間に、楽しいことも悲しいこともあって、私は少しづつ大人になっていた。その頃の私には彼女がいた。誠実で思いやりのあるとても良い子だった。


彼女といる時間を愛おしく感じ、幸せだった。


彼のことはもう忘れていた。


いや、忘れていたのではない。意図的に忘れようとしたのだ。もう彼と一緒になることはないと諦め、自分の心が壊れないように。


だがあるとき奇跡がおきたのだ。


とある別のクラスの友人が私を訪ねてきたのだ。


彼女は私に一切れのメモを渡してきた。そこに書かれているのは携帯の電話番号。


この電話番号は友人の恋人のものだと言う。


恐る恐る私はメモに書かれた電話番号にかけてみた。

数コール鳴り響くと、懐かしい声が聞こえてきた。


私には分かる。


優しい彼の声だった。私は嬉しさのあまり泣き出したくなった。


その日、私は彼と再会した。


彼は一段と逞しくなっていた。中学時代は私の方が10cmも背が高かったのに、今では私よりも高い。


私と彼は時間の許す限り会話を続けた。中学校時代の思い出、今の学校生活、自分たちの彼女について。


それから私たちは時間を見つけては一緒に過ごすようになった。まるで中学生に戻ったかのように錯覚していた。


楽しい時間だった。


私はその時進路について悩んでいた。大学に進んで多くのことを学びたいとも考え、就職して自分一人の力で生きていたいとも考えていた。


彼はどうするのだろう。私の中に一つの疑問が湧いた。


私は彼に進路のことを聞いてみた。


彼は就職するとのことだ。理由を尋ねると、どうやら彼は卒業と同時に今の彼女と結婚するそうだ。


私は心から祝福した。


親友の彼が幸せを掴もうとしているのだ、これほど嬉しいことはない。


そう、嬉しいはずなのだ。


なのに胸に疼く嬉しいとは全く異なるこの感情はなんなのだろうか。


私はこの感情がなんなのか知らないのだ。


だがその感情と共に一つの願いが生まれた。


その願いはひどく歪で、親友である彼を裏切るようなことではないかと考えた。


だが私は自分の奥底に眠っていたこの感情と願いを無視することはできなかった。


私は彼女に告白した。


卒業と同時に結婚しよう、私と共に生きて欲しいと。

彼女は私の告白を受け入れてくれた。


私は幸せを感じていた。


だが何かが足りないと、私の心は飢えていた。


卒業後、私たちは同日に婚姻届を提出した。式を挙げようとは考えていなかった。私と彼の両親はいないも同然なのだから。


私は中堅会社の営業部への就職に成功し、彼は妻の家の土木会社に就職した。


私たちは大人が大嫌いだった。汚い大人たちを幼少期から見てきた。


私たちは本気で働いた。そんな汚い大人になりたくないそんな一心で。


就職して一年足らずで、私たちには子供が産まれた。私は男の子を、彼には女の子が。


私はこのことに歓喜した。私と嫁の子供が産まれたことに対してもだが、それ以上に嬉しいのだ。


私と彼の子供の性別が異なるということに。


私たちは子供が産まれてからも働き続けた。


家族のために働き続けた。




私たちの子供が18歳になった。


その頃には私は独立して会社を経営していた。


彼も妻の父の跡を継ぎ、社長となり事業を拡大していた。


私は彼にある相談を持ちかけていた。


私たちの子供の結婚である。幸いなことに、子供たちの中はとても良い。


彼は子供たちが望むならと了承してくれた。


結果的に子供たちはこれを受け入れてくれた。二人の婚約が成立し、その翌年に二人の間に子供が出来た。私の孫だ。


私は胸に込み上がる感情を隠すのが辛かった。


私の願いが叶ったのだ。


彼と私の血をその身に流す一つの命。


私の中に眠る願望の結晶は、今私の腕の中に収まっていた。


私はその結晶を我が子以上に愛おしく感じていた。

この子が私と彼を繋ぐ者。何があってもこの子がいる限り私と彼は他人同士になることはない。


私は心の中であることを危惧していたのだ。


偶然にも高校生になって私達は再会することができたが、運命とは気まぐれなものでまた中学校の時のように彼との関係が断ち切れてしまうのではないだろうか。


私はそれが何よりも怖かったのだ。


だからこそ彼との強い繋がりを形として欲しかった。だが私達は男同士で子供を作ることができない。


だからこそ私は、私達の子供にそれを託すことにしたのだ。


私の思惑は見事に的中し、私達を断ち切る要素はもう何もない。


あとは私も彼も、儚い人生を歩み静かに生を終わらせることにしよう。



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