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ある悪魔の誘惑

悪魔が男に囁いた

「旦那、アイツを殺そう」

「何でだ。何か訳があるのか」

「旦那。馬鹿言っちゃいけねえよ。俺ぁ悪魔だぜ。これが誘惑ってやつさ」

「ふむ。成るほど」

 そう言って男は納得のいく顔をした。しかし、それでもその頭の中には疑問という声が頭蓋骨の中で山びことなり、遂にはそれを口にする。

「しかし、その誘惑に関して疑問を呈する。何故、殺すのだ。それは僕に得という事があまりにもない。いや、そこにあるのはデメリットだけじゃあないのかい」

「旦那。それはあまりにも浅薄ってなもんじゃあないですかね。人を殺したことはありますかね」

「あるわけがないだろう。そうしたら今頃日の当たるところには居やしないさ」

「だからこその誘惑ですよ」

 男の頭の中に数々のハテナが浮かぶ。ああ、そういえばハテナマークはクエスチョンマークとも言うが、このチョンの部分の響きが面白いなと、内心思いつつそれは心に留め、

「だからこそとは何だ」

「未知なる体験をできるという事でさぁな。旦那は気付いていないかもしれないが、実は人殺しとは案外面白い物かもしれやせんぜ。何せ人間は何にだって楽しみを見いだせる中々に奇特な生物とあっしは思っておりやす。殺人も然り。何、七十年前には沢山人殺しがいやしたし、もっと遡れば殺すなんてさして珍しい事でも無し」

 何を言っていやがるんだこの悪魔めが、と男は思いつつも、いや待てしかし中々どうして理があるのではないかとの煩悶が渦巻く男の胸中。

「案外、殺人ってのはアレです。もしかしたら、楽しすぎるから政府ってなもんが禁止した、そう考えると何だか腑に落ちやしませんかね。それを知る為にも殺人を犯す」

「成るほど、得心した」

 確かに悪魔の言うとおりである。何故してもいないことを禁止するのだろうか。大体、人はいつか死ぬものだ。俺が殺したところで何が悪い、いつか死ぬが今きただけ、来る分だけ幸せだろう。大体、麻薬、買春エトセトラ、快楽を売りにするものは大概禁止されているものだ。一体全体、社会とは快楽を追放するモノではないか。なら殺人は言わずんば。そんな考えが大渦となってある欲求を男の脳の中に沈んでいった。

「うむ。よし、殺そうではないか」

「お、流石は旦那。そう言ってくれると思いやしたぜ」

「しかし初めにアイツを殺しては事が大きすぎる。まずは小さき者から徐々に大きな者へと移るべきであろう。大体、殺人が快楽でなかったら、やり損。それは真っ平御免だ」

「ふむ、旦那。では誰を殺すんですかい。まずは猫あたりからが定石ってな話も聞きますが」

「ああ、最初に殺す相手はもう決めているさ」

 そして男は悪魔の首を絞めて殺した。

 悪魔は死んだ。

 快楽はあまりなかったようだ。


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