嫌気が差した火曜日
「いっいーんちょー!」
学校に着いた途端、茶色い物体に抱きつかれた。……いやいや、違う違う。この子は私の友人の一人だ。だから正しくは、“友人Aに抱きつかれた。”である。言葉は正しく使わないと。
「ねー聞いてる?またぼーっとしてるよ、いーんちょー。」
「あ、ご、ごめん。」
そう言うと茶色い物体ーーじゃなくて友人Aは、不機嫌そうに腕を降ろす。私はそれに内心安堵しながら、見た目と等しい幼げな仕草に少しだけ笑った。
何しろ、薄い茶色の髪を高い位置で二つに纏めてカラフルなシュシュで括ったその容姿は、とても私と同い年には見えないのだ。極論、中学生でも通りそうなくらい。
また中身も良く言えば若々しい、悪く言えば子供っぽい。男子人気は高く、女子人気は低いーーーーどのクラスにも一人はいそうな。
そんな、子で。
つまりは私と同じで、彼女も特別なタイプではない。だからこそ、友達になれたのかもしれないけれど。
「もー、しっかりしてよ?いーんちょーなんだから!」
「そうだね、気をつけるよ。」
君にだけは言われたくないなぁ、と思ったのは内緒である。
さて。ところで彼女は、私に一体何の用があるのだろう?確かに私たちは友達だが、用もないのに話しかける程親しくはなかった筈だ。まぁ彼女の用なんて、大体想像がつくけれどね。ここは社交辞令というか形式的に、挨拶として尋ねておくべきだろう。
そう結論付けて、私はにっこりと微笑みつつ口を開く。
「それにしてもどうしたの?何かあった?」
すると友人Aは、今思い出したとばかりに手を叩き上目遣いで私を見つめ出した。彼女がこういう表情をするのは、決まって何か頼み事がある時だ。面白いくらいに予想通りである。とはいえそれを言ってしまえば妙な空気になりそうなので、あくまで心の中に留めておくことにする。
「あのね、今日小テストじゃん?だけど勉強してなくてー、いーんちょーに教えて貰えたらなって。」
いっつもごめんね!と手を合わせて頼み込まれれば、断るなんて出来る筈もなく。ついでに、「これで26回目だね」と指摘する訳にもいかず。私に残された選択肢は肯定だけで。
「いいよ。」
そう頷いた、途端だった。
友人Aのものではなく、だけど私にとっては聞き流せないあの声が、いつも通りに冷め切った声で囁いたのは。
『あれ、破綻してない?ずれちゃってるんじゃない?ねぇ、委員長。』
「やったー!ありがと、いーんちょー。」
『もっと、しっかり演じないと……バレちゃうよ?』
きゃぴきゃぴした友人Aの声も、言葉も、何一つ耳に入ってこない。脳裏に届くのは、背後から聞こえてくる“あの子”の声、のみで。
「、行こ!」
「え、ちょ、いーんちょー?」
私は友人Aの手を掴むと、一目散に教室へ歩き出した。友人Aが不思議がって、何度も“委員長”“委員長”と私を呼んでいるけれど、振り返る余裕なんてない。
勿論、あの子の戯言に付き合う余力も。
だから心の中で吐き捨てた。
「煩いな。」、と。
なんか…完結させられない気がしてきました…。
まぁ、頑張りますが!