第09話~前途多難な魔法少女~
「それで、この管理人、どうするつもり?」
セレジアは嘆息し、応接間のソファに腰を掛ける。
「ミツキは、回復魔法とか、蘇生魔法とか、少しなら使えるよ!」
自分の会話の喋り出しに自分の名前を入れるのはアイドルだけだと思っていたが勘違いだったようだ殴りたい。
「じゃあ、早くその魔法使いなさい!」
セレジアはミツキの首根っこを掴み、管理人の側に寄らせる。
「分かってるってば!えーと、えーと・・・・・・スリジャヤワルダナプラコッテ!」
「おいふざけるのも良い加減にしろよ」
更にセレジアは距離を詰め、ミツキの帽子を取り、髪の毛を掴む。無駄に長い黒髪ストレートなので、縄のように手に巻き、しならせる。
「いたたたたたた」
「ほらほら早くしなさい」
「わわわわかりました!」
セレジアの制裁も緩み、ミツキはポシェットから辞書のようなものを取り出した。
「えーと、回復は、1107ページの・・・・・・あった!」
ミツキはお得意の笑みを浮かべ、管理人に杖を向ける。
「聖なるパパフスキよ、ここに集え、そしてこの者を救え!スワイ・センドベングルード!」
すると、管理人の体がみるみるうちに青く光り出し、あっという間に炎を食らう前の姿に戻った。
「すごい、これが魔法か」
私はただただ立ち尽くすだけだった。ネトゲなら回復魔法使えたのに。
「使えるなら素直に早く使えば良かったのに」
「ごめんなさい♡人に急かされると焦っちゃうのてへぺろ」
「おい」
セレジアはお得意のムチを取り出す。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
ミツキはその場で頭を抱え丸くなり小刻みに震えている。
「うっ」
そんな茶番を繰り広げているうちに、管理人が目を覚まし、上体をゆっくり重りを付けているように起こした。
「あ、大丈夫ですか?」
私が管理人に手を差し伸べる。
「ああ、無事だ。生きてるのが不思議な位だ」
管理人は私の手には反応せず、ミツキを見つめる。しかしその目は恍惚に満ちている。
「ホント、誰かさんの御陰で危うく死ぬところでしたよね」
セレジアが管理人の言葉に被せ気味に訴える。セレジアはミツキに冷たい視線を送っている。
「いや、これはこれで良い」
管理人はセレジアの方を向き、満面の笑みを浮かべる。
「え?アンタもサイジの仲間?」
「いや私は決して打たれて快感とかそういう趣味はありません」
「何言ってるの?アタシのムチで叩かれて喜んでいたクセに!」
「それはただの思い込みですよセレジアさん。毎回断末魔を上げてるじゃ無いですか。たまに避けたりしますけど」
「そうなの?」
「気づかなかったんですか?」
セレジアが私の意外な反応に顔を強張らせている。
「あの・・・・・・」
ミツキが唐突に手を半分上げ、耳を劈く声で会話に割り込む。
「お二人は付き合ってるんですか?仲とってもよさそうですよね?」
それを言われた途端、セレジアが慌てふためく。
「そそそそそ、そんなんじゃないわよ!!!」
照れ隠しに私にムチを食らわそうとするが、手がもたついて取り出せない。
「じゃあ、ミツキがサイジさんと付き合って良いですよね?」
「何言ってるんですか止めて下さい」
ブリッ子は勘弁して欲しい。まあムチで叩いてくる奴も大概だけど、セレジアの方がマシだ。
「ちょっと!アンタ出会った男に片っ端から声掛けてるんじゃないでしょうね?」
「ちがいますぅ~!ミツキは、他人の彼氏をうばうのが好きなだけですよ!きめがお」
「なんて最低な奴・・・・・・」
セレジアは舌打ちをし、ミツキを今にも命を刈り取らんとする鷹の如く睨み付ける。
「きゃ~嫉妬ってこわ~い!」
ミツキはその視線に怯え、大げさに手足を振りながら走り、管理人の背後に隠れる。
「はうぅ・・・・・・」
管理人は天を仰ぎ始めた。
「ちょっと管理人!そんな顔してないで、ミツキさんを何とかして下さいよ」
セレジアがジリジリと管理人に攻め寄ってくる。
「ああ・・・・・・これはこれで・・・・・・」
「勘弁してくだ、さい!」
セレジアはムチを無事取り出し、管理人の肩に叩き付ける。
「ぎもぢいぃ」
「あっ、逆効果か」
と、言いつつセレジアは第二撃を管理人に加える。
「あうっ!!」
3回、4回とムチの攻撃は続く。その光景に耐えかねた私は思わず叫ぶ。
「あの・・・・・・いい加減チェックインさせて下さい」
その言葉に管理人は我に返り、受付へスタコラサッサと戻っていった。
「さて、今日は何名様で?」
「もちろん2名で」
「は~い!ミツキも一緒に泊まりま~す!にっこり」
「アンタは別の部屋でもう泊まってるでしょ!」
セレジアは間髪入れずミツキを罵倒する。
「いいじゃないですか~。もう同じパーティなんですし」
「いつから一緒のパーティになった?死んでもお断りだ」
その言葉を聞き入れないかの如く、私から宿泊受付票を奪い、セレジアは宿泊人数に『2』を書き入れる。
「え~。もう出逢ってしまったから仕方無いじゃないですか?うわめづかい」
すると、ミツキはセレジアから受付票を奪い、『2』の下に棒を書き足し『3』にする。
「おい、いい加減ふざけるのも大概にしろよ」
「いいじゃないですか~減るもんじゃ無いし」
「アンタはもう別で部屋泊まってるんでしょ?そっちに泊まりなさいよ!」
「大丈夫!やさしい管理人さんなら今から変更聞くって!ね?ういんく」
「はうぅ・・・・・・良いよ。ミツキタンの為なら」
「やったぁ~!ありがと~!どやがお」
「勘弁してよ・・・・・・」
こうして、ミツキと私達は相部屋となった。