第74話~ウィンドミル~
セレジアは何も言えず、その場で立ち尽くしている。
「そう・・・・・・まあ、分かってたけどね」
ミツキは静かにその場を立ち去りはじめた。その目には光るものが見えた。
「何処行くのよ?」
「いいでしょ。独りにさせて」
「アンタ、何勝手に振られたみたいに落ち込んでるのよ」
「え?あなたこそ何言ってるの?サイジにたった今振られたばかりなんですけど、あたし。当てつけ?当てつけでしょ?」
「アンタのサイジへの思いって、その程度だったの?」
そっぽを向いていたミツキの顔が、セレジアの方に向いた。
「アンタがサイジのこと、本気で好きなら、もっとサイジの側に居て、アタシから奪い取るくらいのことしてみなさいよ!この意気地無し!!」
セレジアがミツキの頬を思い切り叩き、両腕を掴んだ。
「アンタのこと、最初はヤバい奴だなって思ってたけど、一緒に仲間として戦ってきて、色んなところで助けてくれたりして、この人信頼できるなって思ってたんだからね!別に敵だなんて、シャリオットもそうだけど、思ったこと無いよ。だって、仲間だから」
セレジアの頬に光るものが見えた。
「・・・・・・ありがとう」
ミツキもセレジアを抱きしめ、一緒に泣き始め
「いやー無事に仲直り出来て良かった」
サイジが二人の会話に割って入ろうとすると、
「「誰のせいでこじれたと思ってるの!!!!」」
二人から容赦ないムチやら魔法やらの攻撃が加えられ、サイジは痛みと快感が入り交じる中、体が許容できる限界を超えてしまったらしく、気を失ってしまった。
一体気を失ったのは何度目だろうか。気がついた時には、見覚えのある建物の中にいた。
「ここは・・・・・・」
「あ、目覚めたね」
そこに居たのはセレジアでもミツキでもなく、ネムだった。
「え?なんでここに居るんだ?」
「なんでって、助けたんだよ。あんなにボロボロにされて可哀想に」
「あれ?あの時居たっけ?」
「丁度着いたときには、針のむしろになってたよ」
ネム曰く、セレジアからはムチの嵐、ミツキからは魔法の連続技を受けてとても嬉しそうにしていたという。全く記憶はないが。
「ああ、そう・・・・・・とにかく、助けてくれてありがとう」
サイジはベッドから立ち上がり、すぐ側にあった窓から辺りの様子を窺う。すると、以前見たあの立派な機械都市の様相を見せていたセインテールは、あちこちで煙が上がり、ありとあらゆる建物が損壊し、ディストピアの様相となっている。
「うそだろ?」
「嘘じゃ無いよ。モンスター達が大勢攻めてきて、あっと言う間にこんな感じだよ」
ネムは嘆息し、ベッドに腰掛けた。
「自分の発明品が、あまり役に立たなかったみたいだ。ショックだよ」
「何言ってるのさ。あんなに凄い戦闘力の機械があったけど、物量にはさすがに勝てないよ」
俯いていたネムの顔が、サイジの方を向いた。
「ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいよ」
やはり責任を感じていたのか、堰を切ったようにネムの目から涙が溢れ出てきた。
「早くインパラジオ協会の暴走を止めないと。何処に居るかは分からないけど」
「それなら、分かるかもしれない」
そう言うとネムは物置から何かレーダーのようなものを取りだしてきた。
「なにそれ?」
「これはモンスターの動きを辿ってインパラジオ協会のアジトを暴くレーダーだ」
「でも、インパラジオ協会って街に一個はある冒険者の宿なんじゃ無いの?」
「そこはあくまでも冒険者の動向を探るための出先施設に過ぎないよ」
ネムは身支度を調え、ロボットの中に乗り込む。
「もう行くの?」
「そりゃそうでしょ。この世界の危機なんだからさ」
そう言うと、ネムはサイジに手を伸ばす。
「一緒に世界の救世主になろうよ」
サイジは少し照れくさくなったが、その言葉にうなずき、ネムの手を取りロボットに乗り込んだ。
以前はロボットは一人乗りだったが、どうやら二人乗りに改造したようだ。
「昔は1人で色々何かするのが私にとっては至高で絶対だった。誰かが手を差し伸べてきたりするけれど、その人は自分の利益しか考えていないんだ。だから独りで全部やることに決めたんだ」
ネムもサイジと同じで向こう側から来た人間で、ずっと家に引きこもって日課の機械工作とクラッキングに勤しんでいたという。その筋の界隈では有名人だったそうだが、自分にとっては至極どうでもいいことで、ただ自分の存在証明を自分自身にまるで暗示をかけるようにしていただけだったという。
「何もしなくて、ただ自分の好きなことをやって生きていければ、それで良かったのにね」
ある日、サイジと同じようにインパラジオ協会から招待の手紙が届き、気づけばセインテールで発明家をやっていたという。
「どういう人選でこの世界に引っ張って来ているのか分からないけど、だいたいは社会不適合者だった奴らをかき集めて来ているみたい」
「なんでそれが分かるの?」
「色々この世界も見てきたけど、向こうの世界から来たっていう人間は、どこかしらが欠けてる人間が多かった。セレジアもそうだしミツキもそう。シャリオットなんてただの変態犯罪者だし・・・・・・」
「確かに」
「今更気づいた?アンタも大概だからね」
「え?なんだって?」
「だから、そういうところだって!」
ネムにロボットのコックピットに格納してあるマジックハンドで頭を小突かれた。
「でも、サイジもだいぶ変わったよね。なんか吹っ切れたよね」
「そう?」
「いつも下ばっかり向いてたけど、今はちゃんと正面向いて話せてる」
サイジの方をネムは振り返り見つめ、そして笑顔を浮かべる。
「ありがとう」
サイジもそんな表情に、自然と笑っていた。
ネムのロボットはレーダーの示す通りに進路を取り、ついにインパラジオ協会の本拠地と見られる場所に辿り着くことが出来た。驚くことに、そこは見たことがある光景であった。
「ジャモリスカ・・・・・・?」
「ここの中に、絶対インパラジオ協会がある」
レーダーが指し示した場所、それはシャリオットと初めて遭遇した場所、ジャングルの街ジャモリスカだった。
確かに、今思い返せば今まで巡ってきた街の中で、唯一ジャモリスカだけがインパラジオ協会の宿がやたら武装強化されていた。何だか良く分からない変態達が争いを繰り広げている奇妙な街だと思っていたが、それもまさかカモフラージュだったと言うのか?
「ここね」
ネムが指し示したのは、あのガトリング受付嬢の居た宿だった。
「かなり警備を強化しているみたい。このロボで乗り込むわよ」
正面を切って、扉をぶち壊し中へ侵入する。その瞬間四方八方から銃撃が加えられる。
無数のガトリング受付嬢がネムのロボット目がけ、ありったけの弾が撃ち込まれるが、全く動じない。
「流石に銃じゃ相手にならないよ」
そう呟くと、ロボットに装備していた爆弾を頭上で展開する。すると、爆弾の中から無数のミサイルが飛び出し、ガトリング受付嬢を追尾し、全て破壊してしまった。
「まあ、ザコにこの程度で充分でしょ」
受付嬢が必死に守っていた扉をこじ開けると、地下へ続く階段があり、そこへもロボットで壁を壊しながら侵入していく。
「このサイズはちょっとキツいかな」
ネムは地下室と思わしき場所に辿り着いたと同時に、ロボットを乗り捨てた。サイジもそれに続く。
「ここがインパラジオ協会の本部なのか?」
「しっ!ちょっと静かにしなさいよ。何処に敵が居るか分からないでしょ」
「その通り」
突如、背後から声が聞こえた。この声には聞き覚えがある。
「シャリオット・・・・・・」
いつもながらのマンキニ姿のシャリオットがそこにあった。




