第70話~彼が服を脱ぐに至ったまでの道程・3~
「じゃあ、私達をモンスターにするのか?」
「ああ、でなければ魔王は倒せない」
「何言ってんだよ。『サンパリーツ』があるじゃないか!」
「それは魔王にダメージを与えられる。だが、それは勇者だからダメなのだ。人間が倒してしまっては、魔王が引き継がれてしまう。モンスターで無ければダメなんだ」
「・・・・・・じゃあ、私達パーティの誰かがモンスターになって倒さなければならないってことなのかよ」
「ご明察」
サイジはシャリオットの胸ぐらを掴み、頬を拳で殴り付けた。
「いい加減にしろよ。何の為に今まで頑張ってきたと思ってるんだよ!」
「元の世界に戻るためだろ?良かったじゃないか、魔王が倒せればその目的も達成出来るぞ」
「モンスターの姿で戻ったところで意味がないだろ」
シャリオットはサイジに握りしめられた胸ぐらを振り解き、微笑し、再び問いかける。
「なら、貴様が魔王になるか?ただ我が輩は貴様達への慈悲深き我が心で、先程のような提案をしただけだ。別にこの場で倒し、貴様に魔王が引き継がれようとも、我が輩は構わない」
頬の筋肉は小刻みに震え、目は血走り、二の句が継げないままでいるシャリオットを、サイジは鼻で笑った。
「魔王って、そんな安い役だったのか・・・・・・勇者もこんなだしな。この世界どうかしてんじゃないか?」
「どうかしているから、我が輩の手で終わらせるのだ」
「なら、それは魔王の役目じゃ無い。勇者の役目だ」
サイジはシャリオットに耳元で語りかけ、マンキニを手渡してもらった。
「このマンキニは決してモンスターにならない特殊な魔法が掛けられている。貴様がもしインパラジオ協会に襲われたとしても、決して己を忘れる事はない。モンスターになれば我を忘れ、人を襲い始める。だが、貴様達のような我の強い冒険者であればその心配ないが、これは保険のようなものだ。受け取り給え」
「魔王から物を戴く日が来るとは・・・・・・。大切に使うよ」
サイジはその場で服を自ら脱ぎ捨て、マンキニを装着した。
「意外と着心地いいな」
「貴様もマンキニの魅力に気づいたか。これは服から身体への摩擦を最小限に抑え、動きを俊敏にすると共に、周りから常に蔑みの目で見られることで、快感を力に変える最適な服装なのだ」
服という常識を外れ、我が道を行くシャリオットは、ある意味魔王の鑑なのかも知れない。その意志を継ぎ、サイジは仲間達が待つ場所へ、ミツキのナビゲートで向かうのであった。




