第07話~旅立ちは痛みと共に~
一夜明けて、受付前。
「いや~昨日はどうなるかと思いましたよ、ほんと」
私が欠伸混じりに呟く。
「まさかアタシもこんなことになるとは思って無かったわよ」
セレジアは手を胸の前で組み、肩を伸ばしている。
「確かに、この世界に来たその日に、コミュ障同士が出会って偶然パーティ組むなんて驚きですよね」
「ほんと、世の中分からないわね・・・・・・」
そんなボヤキを聞いてか聞かないかは知らないが、偽幼女受付嬢がスウッと近づいて来た。チュッパチャップスを舐めている。
「そうさ、長い間生きていると色んなことが起こるんじゃ」
「出た!年齢詐欺師!」
そう言い放った瞬間、偽幼女の掌から光の玉が発射され、天井まで突き飛ばされた。
「これらから最近の若者は・・・・・・」
幼女はチュッパチャップスを舐めながら呟く。
「ところで、何かミッションとか来てませんか?」
セレジアは私に目もくれず、話を再開する。
「ああ、そういえば、近くの街で久しぶりに魔物が出たってさ」
幼女から渡された紙には以下の様に書かれていた。
お仕事票
場所:マギルカ周辺
内容:魔物討伐(Lv.10相当)
詳細:ドラゴン族系の魔物です。おそらく街の近くに巣があると思うので、それもお願いします。
報酬:10万イェン
「レベル10相当か・・・・・・頑張ればいけるかな?」
セレジアはお仕事票を見つめ、俯き思案する。
「いや、まだお主の実力じゃ、レベル7もいくかどうかじゃろう。そこの少年もレベル3相当と見た」
幼女はチュッパチャップスを口から取り出し、見事に爆発させた。
「一瞬でやられるのがオチじゃ」
「そう、ですよね。アタシ達じゃ、無理ですよね」
「まあ、そう言わずに、ほれ!」
受付カウンターの書類ボックスから幼女はおもむろに、何か取り出した。
「パーティ募集票じゃ。マギルカなら魔法の都故、手練れの魔法使いがわんさかおるじゃろ」
「なるほど、メンバー増強で乗り切るということですね」
私はようやく天井から舞い戻り、意識を取り戻した。ついでに幼女からチュッパチャップスを奪おうとするが、あっかんべーをされてしまう。いい歳こいてあっかんべーはないだろう・・・・・・
「もちろん、メンバーを入れるにもそれ相応の実力や加入者の目的に適うパーティでなくては入ってもらえんぞ」
確かに実力はどうしようもないとして、このパーティは利用するに値する価値があるのかといったら、微妙なところである。コミュ障2人、しかもまだまだ経験は浅い。やはり高望みして相当の手練れを引き込むのは諦めて、私達のような馴染めない者を探すしか無い。
リストとにらめっこしたところで、結論は出ない。善は急げ。
「おばあちゃん、このリスト貰っていって良いですか?」
「・・・・・・誰がおばあちゃんじゃ?」
幼女は私の眼前に掌をちらつかせる。
「わ、わ、わかりました。お返しします」
「どうせ向こうにも同じものがある。一応募集サロンというのがあるから、受付の者に訪ねてみるが良い」
そう言って幼女は、私達に通行証と馬車使用許可書を差し出した。
「頑張りな、お二人さん」
ついでにチュッパチャップス(マーブル色)も貰った。
「あ・・・・・・ありが・・・・・・」
「なあに、わしの砲撃を耐えた褒美じゃ」
感謝を述べようとしたが、被せられた。
幼女に軽口を叩かれ、受付を後にし、入り口を出ると既に馬車が用意されていた。
「しがない村長から、ささやかなプレゼントだ」
ヒゲダルマ村長が気を利かせて馬車を手配していたのだ。
「こんなものまで・・・・・・」
「まあ、これを使って沢山手柄を立ててくれ!この村の為にも頼む!」
村長にお辞儀をされた。こういう頼まれるとか、プレッシャーには弱いんだよな。
「わわわわわかっりました。せせ、精一杯頑張ります」
「なに、緊張してるのか?」
「ききき、緊張してないです」
「分かりやすい奴だな」
セレジアに頬を人差し指を突かれた。
「なんだお前達、一晩でそんなに仲良くなったのか?若いっていいねー」
「やや、やめて下さい村長!!冗談にも言って良いことと悪いことが・・・・・・」
セレジアは、みるみるうちに紅潮していった。
「まあ、二人とも達者でな」
私達は村長とその取り巻き数人に見送られ、この街『ラサマ』を後にした。