第69話~彼が服を脱ぐに至ったまでの道程・2~
「一体何のために戦っていたんだ・・・・・・バカみたいだ」
サイジは膝から崩れ落ち、その場でうなだれてしまった。
「そういうことなんだ。今もインパラジオ協会は勇者を攫ってはモンスターに変え続けている。ただ、ここ数年はその数はだいぶ減っている。我が輩のおかげでね」
「そうなのか?」
サイジがシャリオットの言葉を聞き、俯いていた顔を彼に向ける。
「インパラジオ協会が世界中に根を張り、クエスト依頼を出し結果を出さない、いわゆる使えない勇者をモンスター化し、淘汰を行っている。異世界から無尽蔵に来る人間達をそうやって選別している」
シャリオットは不敵な笑みを浮かべる、
「貴様達も全くクエストをこなしていないから、インパラジオ協会から睨まれているぞ。そろそろ追っ手が来てもいい頃だ」
「そうなのか?」
「貴様のダメさ加減を見て尾行を始めて、まさかこんなにもひどいとは・・・・・・」
「悪かったな!真面目に冒険してなくて」
少し表情が柔らかくなったと思いきや、途端に真顔に戻った。
「このままでは、貴様のメンバーもマズいんじゃないか?」
「・・・・・・そうなのか?」
「今頃、捕まってモンスターにされている頃かもな」
「その話は、本当なのか?」
サイジは一つ、頭の中に引っかかる事があった。そう、なぜミツキを攫う必要があったのか、だ。別に勇者のことを憎んでいたりするのであれば、勇者に与する仲間などその場で消してしまえばいい話だ。
「そもそもお前が嘘をついていない保証なんて何処にあるんだよ」
「ハハ、それもそうだな。自らの身分を偽って貴様に近づいた非礼はこの場で詫びよう。だが、どれもこれも、貴様の実力を見極めるためだったのだ。貴様が勇者たり得る存在であるかを、この目で見極めるためだ」
「なら、仲間として近づくのでは無く、普通に魔王として近づけば済む話じゃないのか?こんな回りくどいことして、時間の無駄じゃないのか?」
「時間の無駄なんかではない。我が輩は数々の勇者と対峙し、ある結論に辿り着いたのだ」
「結論?」
「そうだ。戦うよりも、話してみることで、勇者の資質を見極める事が出来るのだ。戦闘では只の命のやり取りしかない。それに比べてじっくりその者とこのように会話を幾分か交わせば、どのような者か分かる」
「それが分かってどうする?」
「もちろん、我が輩を倒せるかどうかだ。無駄に戦って命を散らしては、勿体ないからな」
「なら、魔王を辞めたらどうだ?そんなに人を殺したくないなら」
「この魔王という役割は、『呪い』なのだよ。誰かに倒されなければ、我が輩は魔王から解放されることはない。魔王は誰かに譲る事は出来ない。その魔王の役割は、魔王を倒した者に受け継がれるのだ」
「・・・・・・つまり、シャリオットは、前の魔王を殺した?」
「その通り。我が輩は勇者であった。そして魔王を殺し、我が輩自身が魔王に成り代わってしまった。この連鎖は、我が輩で断ち切りたい」
「どうやって断ち切るんだよ」
「インパラジオ協会にモンスターを作らせ、モンスターに殺される。それが我が輩の願いだ。その我が輩を倒しうるモンスターの器となるものを、今まで探していたのだ」




