第68話~彼が服を脱ぐに至ったまでの道程・1~
ミツキの導きにより、サイジは魔王の前に現れた。
「おい、街の人間はどうしたんだ!!」
眼前にシャリオットが入った瞬間、飛び出し斬りかかろうとする。それをミツキが見えない力で制止させる。
「我が輩は誰も殺してはいない。すべてフェイクだ」
「なら、なんで街を破壊したんだ!」
「その前に聞いていいか」
質問を遮り、魔王がサイジに問いかける。
「何故貴様が街の人の心配をしているのだ?」
「え?決まってるんだろ、勇者だからだよ」
「その勇者、っていうのは誰が決めたんだ?」
「今更何言ってるんだよ。インパラジオ協会だよ」
「そのインパラジオ協会っていうのは、何をしている団体なんだ?」
「魔王を討伐するために、勇者を蔓延らしてえっさほいさ倒す為の団体じゃないのか?魔王なのに知らないのか?」
「いや、我が輩も元は勇者だから、それくらいは分かる」
その言葉の刹那、サイジの身体に雷に似た衝撃が走った。
「お前・・・・・・勇者だったの?」
「そうだ。この世界に来る者は全員元は勇者だ。モンスターも元を正せば勇者だ」
「何、根拠の無い事言ってるんだよ」
「根拠なら、これがある」
そう言うと、魔王は映像をサイジの眼前に映し出した。
「これはインパラジオ協会の深部にある研究所だ」
それはサイジがこの世界に来た当初にぶち込まれていた牢屋だった。
「これは、見覚えがある」
「そうだろ?ここは勇者として飛ばされてきた者が一度ここに集約されて『選別』されるんだ」
映像は時間が進み、一つの牢屋を映し出す。そこには、1人の若者が収監されている。係の者と思われる白衣を着た男が二人組でやってきて、牢を開ける。若者は意識を失っているようで横になったままだ。
その男達は若者を抱え、別の部屋へと移動した。
全て壁や電灯に至るまで真っ白な部屋。中央に直径2メートル程度の高さの円柱が鎮座している。男達はその円柱の頂上に若者を置き去りにし、その場を去る。
その若者は男達が離れた刹那、稲光が轟き、光が潰える時には過去に見かけたドラゴンに変貌していた。
「これが、実態だ。インパラジオ協会は、現実界から不要となった人間をこの世界に連れ込んでは、『実験』を繰り返していた。貴様も、その一貫だったってわけだ」
「どういうことだよ!モンスターが、人間だなんて・・・・・・信じられるかよ」
彼は思った。この世は全てデタラメであると。
また、彼は思った。自分が勇者を勇者たらしめるものなどこの剣でしかないと。




