第65話~美しい仕打ち~
空は再び紫色に染まった。
魔王に対する何の手掛かりも持たず、セレジアはアジトを飛び出してしまった。もうシャリオットは仲間では無く敵であることは、頭では理解しているつもりだ。だが、体が言うことをを聞かないのだ。まだどこかで躊躇いがあるんじゃないか、と思ってしまう。
シャリオット自体、あまり人を傷つけることを良しとしない人だったような気がする。男には頼もしい戦士に、女からは変態紳士として見えていたことだろう。
「なんでだよ」
口から不意に出た言葉がそれだった。
ここでシャリオットを仲間として止めに入るべきか、それとも魔王として駆逐してしまうべきか。だが、今はいずれも手段も私は行使出来ない。今『サンパリーツ』を持っているのはセレジアだ。私は完全なる無力だ。
なら、シャリオットを探さなくてもいいんじゃないか?どうせシャリオットに遭遇しても回避するだけで、何の抵抗も出来ない。行ったところでどうしようもない。邪魔者だ。
このままじっと待っていようか。だがそれはそれでどうなのだろうか。曲がりなりにもパーティメンバーが戦いに出ているのだ。参加しないでどうする。パーティでいる意味が無い。役割を果たさなければパーティからあっという間に追い出されてしまう。
・・・・・・でも、私の役割って一体何なんだ?
ただ逃げ惑っているだけの引きつけ役でしかない。相手に致命的なダメージを与えられる『サンパリーツ』が無ければただのニンゲン。そんなもの、パーティに居るのか?そもそもセレジア達がそんなものを欲しているのか?
やっぱり、パーティに要らない存在じゃないか?
思案に耽り、日も沈んだ頃彼女は再び私の前に姿を現した。
「久しぶりぃ~」
この語尾には聞き覚えがある。
「ミツキ?!」
「せいか~い!」
そう叫ぶと、私の胸へ飛び込んできた。思わず再開を喜び抱きしめてしまった。
「今まで一体何してたんだよ!」
「なんにもしてないよぉ」
「そうなんだ。今まで通りだな」
「今まで通りってどういうことぉ~?!」
ミツキが私の背中をポコポコと可愛く叩いてくる。
「ハハ、嘘だよ。十分活躍してたよ。でも、なんでパーティ抜けたの?」
その言葉を発した途端、突如としてミツキの顔から笑顔が消えた。
「え?分かんないの?近くで見てたのに?」
「そんな言われたって、分かる訳ないよ。自分のことさえ、いまだに分かんないっていうのに」
ミツキはその言葉を聞いて鼻で笑った。
「あ~あ。だからこうなっちゃったんだ。どちらにしろダメだったんだよね」
「何のこと言ってるんだよ」
多分阿呆みたいな顔を浮かべて居るんだろう、きっと。また人の気持ちを理解できなかった。何について苛立っているのだろうか。優柔不断なところだろうか。
「とりあえず。色々話そうか」
嘆息を大きくつくとミツキは、近くの岩場に腰掛け手招きしてきた。




