第64話~相対するとき~
「お~ここがアジトか」
意外と村から近い距離に、そのアジトは存在した。中には4~50人の村民とみられる人々が、あちこちに木や葉で構成されたテントを設営し暮らしているようだ。
「なんとかここまで逃げてこられたのがここで暮らしてるんだな」
サイケ毛むくじゃら男は側の焚き火を薄目で見ながら感慨に耽っている。
「とりあえず、何があったかを教えてくれない?」
セレジアがサイケ毛むくじゃら男に問うと、先程の軽い表情とは打って変わって神妙な面持ちになった。
サイケ毛むくじゃら男から聞いた話はこうだ。
ある日、サイケ毛むくじゃら男が洗濯物を干していると、上空の色が赤紫色に変わっていき、やがて無数の雷が落ちてくるようになったという。
さすがにこれはまずいと思ったサイケ毛むくじゃら男は、洗濯物を屋内に避難させ自身も建物の中に入ると、物凄い轟音と共に魔王達が現れた。魔王達は村の中に入り、村民達を瞬く間に焼き殺していった。中には勇者も居り、またとない機会と戦いに繰り出したがことごとく敗れ去り、為す術が無くなった生き残りの村民達は村の井戸からつながる地下道を通り、命からがら洞窟に逃げてきたのだという。
「そうだったのか・・・・・・私達が村に来た時には既に魔王は居なかったな」
「あいつらは村を破壊し尽くした後、結局居座ること無く立ち去っていったんだな」
そう言うと、サイケ毛むくじゃら男は洞窟の奥へと歩いていってしまった。
「でも不思議よね、村を破壊だけして立ち去るなんて。何か物とか偉い人を壊しに行くのが普通じゃ無い?」
セレジアはサイジが背負っていた『サンパリーツ』を無理矢理奪い取り、振り回し始めた。
「そうだよね。普通ならね」
サイジは奪われた『サンパリーツ』を取り戻そうと、セレジアの両腕をわしづかみにし地面に押し倒すが、サイジの筋力では完全に押さえ込むことは出来ず、思いっきり腹に膝蹴りを食らわされ、その場に突っ伏してしまった。
「なら何の目的で村を襲ったんだんでしょうね」
「きっとこれは誘ってるんだろうねぇ」
「誘ってる?」
ネムは引き笑いしながら話に加わった。
「そう。多分私達に見せつける為に。そして倒すように仕向けるために。感情を逆なでさせるための。魔王ってそういう人なのね」
「シャリオットはそんな奴じゃ無い」
蹴られた腹を抱えながら、サイジは再び立ち上がる。
「シャリオットは変態で紳士で、困ったときにさりげなく手を差し伸べてくれて、理由無く人を傷つけることはしないはずだ」
「でも、アタシ達もそんなに長くアイツと居た訳じゃ無いでしょ?そんな短期間にアイツのことを全て知ることなんて不可能なんじゃ無い?」
「それでも!・・・・・・それでも信じたいんだ。一度は共に戦った仲間なんだ」
その言葉を発した途端、セレジアはサイジに駆け寄り、頬に思いっきりビンタを食らわした。
「アンタ、まだそんなこと言ってるの?もうこの村ではシャリオット達のせいで人も物も失われてるのよ!寝ぼけたこと言わないでよ」
サイジの目からは今まで出たことの無い涙がこぼれ落ちていた。
「もう仲間なんて言ってられない。シャリオットはアタシ達の敵よ」
セレジアは『サンパリーツ』を握り絞めたまま、洞窟を後にしようとした。
「何処に行くんだよ」
サイジが引き留める。するとセレジアは振り向き様に応えた。
「村に行くわ。アイツは必ずあそこに再び来る。ネムが言った通りならチャンスは来る」
セレジアは『サンパリーツ』を抜き、天にかざした。すると剣は再び白く光りだした。
「シャリオットはアタシが倒す。アンタには無理でしょ?」
ぐうの音も出ないまま、ふらついた足取りでセレジアを追いかけ始めた。




