第62話~全身全霊で受け流すとサイケ~
刻一刻と、風景を闇が支配していく。段々と視界が狭まっていく。
「暗くなってきたねぇ」
そう呟くとネムはポシェットから懐中電灯を二本取り出し、セレジアに一本渡す。
「ありがとう」
早速試しにと懐中電灯のスイッチを入れる。しかしその瞬間だけは光ってはくれたが、何かペンシルロケットのようなものが発射され、二度と光を放つことはなかった。
「ちょっと何これ?!全然使いものになんないじゃない!」
「ああ、ごめ~ん、こっちだった」
ネムが再び手渡してきたのは、先ほどと全く同じ形の懐中電灯だった。
「これ、本当に使えるやつ?」
「多分」
「多分、ってちょっとアンタねぇ・・・・・・」
とは言いながらも、この暗闇を何も無しに進むのはとても正気とは思えないので、再びスイッチを入れてみる。今度は本当に使える懐中電灯のようだ。
「ほっ」
すると、草むらから嘆息の声が何故か聞こえてきた。
「誰?」
セレジアが警戒しながら、声が聞こえた場所へ近づく。すると諦めたように草むらから何かが現れた。その姿に二人は見覚えがある。
「あ、サイジじゃん。野垂れ死んでたと思ってた」
素っ気なくセレジアが懐中電灯の光をサイジに当てる。
「ちょっと、眩しい」
「なんだよ疲れたって駄々こねてたクセに」
「・・・・・・ごめん」
サイジは頭を垂れた。
「なによ、調子狂うじゃない」
セレジアは懐中電灯をサイジにそっと渡した。
「ほら、道案内してよ。女の子を先頭で歩かせるつもり?」
「はいはい」
「返事は一回!!!」
即座にセレジアのムチがサイジの尻を襲う。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「それでこそサイジよ!」
懐中電灯で照らしたセレジアの顔には、微笑みがよみがえっていた。
セレジアはネムがロケットランチャーによる攻撃を受けその発射元まで突き止めたことをサイジに話し、ネムの指示のもと洞窟へ向かうこととなった。
「それにしてもロケットランチャー喰らってよく生きてたね」
「まあ、天才科学者だから身の安全は常に確保してるよ~」
ネムは雄弁に語る。
「自分で自分のこと天才って言っちゃってるよ・・・・・・」
「実際天才なんだから仕方無いじゃん隠しきれないよ」
更に調子付いて、サイジに顔を近づけながら冷静に語るネム。それを傍から見ていたセレジアは段々虫の居所が悪くなっていった。
「ちょっと!何熱くなってるのよ!近づき過ぎ!」
セレジアは二人の間に入り無理矢理引き剥がしに掛かった。
「良いじゃんちょっとぐらい」
「ちょっとがダメなんだってば!」
「もしかして・・・・・・妬いてるの?」
「違う!!」
全力で全否定するセレジアの声が森にこだまする。それに呼応するかのように、何処からともなく再びロケットランチャーが放たれた。
「あらら・・・・・・ごめん」
「いやもう遅いから」
物凄い轟音を立ててこちらにロケットが近づいてくる。サイジは何故か音のする方へと歩を進める。
「え?死にたいの?そんなにムチで叩かれるのが辛かったの?」
「そんなのご褒美でしかないよ、セレジア」
ニヒルな笑みを浮かべ、サイジは悠然と仁王立ちで構える。
「あんなの喰らったら普通は木っ端みじんだよ~」
ネムはそんな光景見たくないと自分の両手で目を塞いでいる。
「見てろよ二人とも。これが私の持ってる才能だ!!!」
瞬間、ロケットが二人の眼前を通過した。しかしサイジにはかすりすらしなかった。
「どういうこと?もしかしてサイジって、幽霊?」
「いやいや、そんな訳ないから。全力で避けたんだよ」
親指を立てて二人にドヤ顔を見せる。
「はい、てっしゅー」
二人はほとんど見向きもせず、再び洞窟へと歩を進め始めてしまった。
「おい!マジで死ぬ気で披露した得意技なのに、反応無し?」
「いや、前にも見たことあるし」
セレジアは素っ気なく応える。
「まあ・・・・・・確かに見せたことあるよね。じゃあネムはどうだった?」
「えーあれぐらいメカ使えば余裕で避けられるしー」
二人のリアクションが薄く、早くも心が折れそうになっているサイジ。そんな中、洞窟の方から人影が一つ、光にあぶり出された。
「なんだよぉまぶしいなあ」
そこに現れたのは、全身毛むくじゃらの、サイケデリックな渦巻き眼鏡にサイケデリックな色彩のシャツとパンタロンに身を包んだ、見るからに怪しい中年男性であった。