第60話~はいはい。みなさん。落ち着いて。~
外は既に日が暮れ、暗闇が辺りを支配しようとしていた。
「ねえ、いつになったら日記の持ち主に会えるの?」
セレジアが駄々をこね始める。それも仕方無い。何せ街には人っ子一人居ないので、ご飯もまともに食べられず、休息も取らずにネムが指し示す日記の持ち主の居場所を探し続けているのだ。
「そ・・・・・・そろそろさ、一回休まない?もう限界だよ・・・・・・」
サイジはもう動けないとその場に座りこんでしまった。
「全く、本当に体力無いのね」
セレジアがサイジの隣にちょこんと座る。
「え~あともうちょっとで会えるかもしれないんですよ~」
ネムは二人を一瞥しそのまま歩き続けている。
「ネムって意外と体力あるんだな」
「まあ、あれだけ朝昼晩と研究所で寝ずに発明ばっかりやってたらそれくらいになるのかもね」
「いや、それだけじゃあんなにならないでしょ」
「・・・・・・まさか?」
確かに以前からネムの言動や行動にはおかしな所がたくさんあった。突拍子もないというか、バッキバキというか。普通の人間ではあり得ない発想を尋常では無いペースで形にしているからして、脳の構造が普通ではないのだろう。果たしてこれは天然で得たものか、それとも・・・・・・
「ネムはヤクをキめてるんじゃないのか?」
「かもしれないわね。セインテールでも『ポンタカ』っていう24時間寝ずに働けるっていう危ないクスリが出回ってるって噂よ。もしかしたらそのクスリも、ネムが作ったんじゃ・・・・・・」
ますます疑いが濃厚になるネム。しかし、この疑惑をどうやって調べればいいものか。普段から『ポンタカ』をキめているならどこかで不審な動きをするはずだ。その瞬間を抑えれば問題無い。クスリの力で大量の発明をしていたというのなら言語道断だ。
「セレジア、ネムに張り込みで調査だ」
「分かったわ。どうせアンタじゃネムのバイタリティについて行けないでしょうし」
セレジアは立ち上がり、勝手に前進していくネムを追うことにした。
「よろしく」
サイジはというと、その場を離れずただ虚空を見つめるだけであった。
「全く、ネム歩くの早過ぎ」
悪態をつきながらネムの足跡を追う。
「何か言った?」
セレジアの視界からは豆粒程になっていたネムから声が耳に届く。
「ちょっと待ってよネム!!」
「ああ、ごめん~」
ようやくネムが足を止め、セレジアがネムの背中を捕らえた。
「そんなに急いでも、その人見つかるわけじゃないでしょ?疲れないの?」
「大丈夫~!これ使ってるから!」
まさか、本当にドラッグを使ってるのか?ネムは白衣のポケットから突っ込んでいた手を出し、突然自らの靴を指差した。
「ハハ~このUFOシューズのおかげなんだよね~」
セレジアは地面に這いつくばり、指差された靴に視点を映した。なるほど、靴と地面が微妙に離れている。
「この反重力のおかげであんまり体力使わずに歩けるんだよね」
「あら、そうなの・・・・・・」
ネムのドラッグ疑惑はこの靴の存在で一旦晴れることとなった。まだ疑問が残る点はあるが。
「とりあえず、その靴サイジにプレゼントしてくれない?」
「ああ、ごめん。これまだ試作品なんだ~」
そう言うとネムは靴に導かれるままロケットのように空へ打ち上がった。
「それじゃ意味無いだろ!!降りて来い!」
「ごめ~ん暫く降りられないかも~」
ネムは空中に浮いたまま、セレジアに向かって楽しそうに手を振っている。
「・・・・・・ったく、これでヤクやってないって、信じられないよ」
嘆息をするも束の間、空に轟音が響き渡った。衝撃で地面に立っていられない程の風が吹き、倒されてしまう。
「一体何?」
セレジアが再び空を見上げると、大量の黒煙が上がっており、そこにネムの姿は無かった。




