第59話~他人の日記は蜜の味~
「なんなの、これ?」
セレジアは呆然としたまま、ノートを眺め立ち尽くしている。
「他は何か書いてない?」
サイジはセレジアからノートを奪い取り、次のページを開く。手の脂が乾いてなかなか次のページがめくれない。もしかすると、次のページを開けばもっと辛い現実に突き当たるのではないかと、勝手に思い込んでいるのではないだろうか。
「早くめくって!」
ネムに後ろから急かされ、再びページをめくる。今度はすんなり紙が滑った。
次のページには、びっしりと文章が書かれていた。日付も合わせて書かれていることから、恐らく逃げる直前までのことを日記のように記録していたのだろう。
「なんて書いてあった?」
セレジアがサイジの右脇から顔を出して日記を眺める。
「ええと・・・・・・」
書かれている内容を読み始める。
『○月×日 今日は良く晴れていた。天気がよかったので、洗濯物を干した。よく乾いた。』
たわいも無い日常が赤裸々に綴られているようだ。
「・・・・・・」
三人共終始無言のまま、次のページをめくる。
『×月△日 かざんがふんかした。やばい。せんたくものとりこまなきゃ』
「いや、書く前に取り込めよ」
セレジアが即座にツッコミを入れたところで再びページをめくる。
『△月□日 へんなおとこたちがやってきた。なんかへんだ』
心なしか、日記の文字も少し荒れて来ている。変な男達とは一体誰のことを言っているのだろうか。特に男達に関する記述は無いのでそれ以上のことは分からない。
イヤな予感が日記から再び漂って来る。先ほどの洗濯物取り込む取り込まないの話をしていたのが、まるで嘘だったかのようだ。
既に冒頭の血文字で何か起こったのは知っているが、遂にその真相を知る事になるのかと思うと、手は掛けられるが次のページが中々めくれない。
「なにやってるの!早くめくりなさい!」
セレジアはそんなサイジの気持ちを察したのか、彼の手首を掴み、無理矢理ページをめくらせる。
そこに書かれていた内容は、衝撃的なものだった。
『■月☆日 まおうがきた』
「・・・・・・?!!」
なんと、この街に魔王シャリオットが降臨したというのだ。
「まさか、先回りされたってこと?」
セレジアがサイジの両肩を掴み、揺さぶりを掛ける。
「わわわ、お、おちついて」
「あ、ごめん」
「とりあえず、街の人が何処に逃げたか突き止めないとねぇ」
ネムがポシェットから何か機械を取り出す。片手で持てる分厚い長方形の箱のようなモノだ。
「なにそれ?」
「これの持ち主の居場所を探し当てるのだよ」
そう言うとネムは日記にその機械を押し当て、箱の中央にある赤いスイッチを押した。
すると、綺麗な虹色の光がある一点を指し示した。
「こっちにいるかも」
三人は導かれるまま、詳しい話しを聞くため、その光の後を追うことにした。




