第57話~鉄と犬~
サイジ一行はセインテールを後にし、火山の街ドンガマグに向かいはじめた。
ドンガマグまでは交通手段が一切無く、ひたすら道無き道を進むだけである。火山の街だけあって、街の自体の標高が高く、ここから1000m程の差があるというのだ。
一行は、これから来る山道に備え、ネムの家から登山道具や、肉体の動きを補助するパワースーツを支給された。
既に険しい山道に差し掛かっている一行は、早くも弱音を吐き始めていた。
「もう・・・・・・だめ・・・・・・」
サイジは坂の途中でへたり込んでしまった。
「うそでしょ?アンタ腐っても勇者じゃないの?山の一つや二つ、登れる位の根性が無いとこれからやっていけないんじゃない?」
セレジアがだらしなく垂らしたその腕を掴み、無理矢理立ち上がらせようとする。しかし本人にその意思は無く、そのまま垂れた腕は元の位置に戻ってしまった。
「少し、休まない?」
サイジはテコでも動かない構えだ。それを見かねたセレジアは、山道の途中に見える傾斜が緩やかになっている場所を指差し、呼びかける。
「まだしばらく山道なんだから、もうちょっといったところで休まない?」
セレジアの提案にサイジはいやいやながらも同意し、再び歩を進め始めた。
サイジが疲れたと駄々をこねセレジアが励ます、というループをうんざりするほど重ね、ようやくドンガマグに到着した。
火山を中心に据えるこの街の全ての家や建物は、溶岩を加工したもので作られている。そのため、街中は錆びた鉄のような臭いが充満している。
「うわ、なんか鉄臭い」
思わずセレジアが口の辺りを手で覆い隠す。
「別に血が出てる訳じゃないけど、出てる気がする」
サイジは全身を嗅ぎ回り、自分の臭いで無いことを念のため確認する。
「これ、建物に入ってもこの臭いがずっと続くんじゃ・・・・・・」
「それは、割と思った」
「ならこれを使ったらどうかな~」
ネムが二人の要望に応えて出したのは、布で出来たマスクであった。
「こんなんで臭い防げるの?」
「いいからいいから、着けてみてよ~ほら」
二人はネムに促されるままそのマスクを着用する。すると、先ほどまでの鉄の臭いが一瞬で無くなり、代わりに湿った犬の臭いに変換されたのだ。
「なんか、今度は違う不快臭がするんだけど」
「ごめんね~、そのマスクは不快と思われる臭いを、人がギリギリ許せる犬の臭いまで変換してくれる優れものなんだよ」
「いやいや、不快には変わりないから。犬の濡れた臭い嗅ぐよりは鉄の臭いの方がマシだから」
セレジアは、結局マスクを外しネムに返してしまった。一方サイジはというと、マスクの臭いに夢中になっており、その場で立ち尽くしていた。
「うわ、ひくわ・・・・・・」
「ちょっと、いや、違うんだってば!昔飼ってた犬のこと思い出してジーンとなってただけだから!犬の臭いに興奮する性癖とかじゃないから!!!」
「離れてくれない?」
セレジアから向けられるサイジへの敵意の眼差しは、まさにゴミを見る目であった。