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青春18勇者  作者: 天川 榎
章間
56/75

第56話

 その頃、魔王城。

「魔王様のご帰還であ~る」

 間の抜けた声が謁見の間に響く。

「そういうのはよしてくれ、恥ずかしい」

 謁見の間に堂々たる黄金のマンキニで入って来たのは、紛れもなくシャリオットである。

「ミツキ、例のモノを」

「はい、かしこまりました」

 目の色を失ったミツキは、持っていた魔道書をシャリオットに手渡す。

「全く、こんな質の悪いものが世の中に出回っているとは。これでは何十年経っても攻め込まれないわけだ」

 魔道書でペチペチと手のひらを打っていると、脇から従者が姿を現した。

「ごもっともです、魔王様」

 その言葉に、シャリオットは従者を一瞥した後舌打ちをした。

「少しは恭順の言葉より、まともな案を出してはどうかね」

「はい、精進いたします」

 子犬のような瞳で嬉々と従者はシャリオットを見つめ、再び陰へと消えていった。

「はぁ、これだから思考停止した人間は嫌いだ」

 玉座に着いたシャリオットは、足を組み不満げな顔を浮かべ空を仰ぐ。

「貴女のことも言っているのだよ、ミツキ」

「そうですか」

 それ以上の回答はミツキの口から語られることはなかった。

 一呼吸置き、シャリオットが皆に呼びかけるように話し始める。

「さて、我が輩はようやく勇者の中から逸材を発見した」

 謁見の間の従者達が一斉にどよめく。空気が一気に濁っていくような感覚が襲う。

「なあに、恐れるのにはまだ早い。奴はまだ未熟者だ」

 安堵の嘆息が漏れる。まるで空気の中に滞留していた霧が晴れたようだった。

「奴の名はサイジヒデアキ。魔王殺しの剣『サンパリーツ』を手にしている」

 再び場が騒然とする。

「なんと!あの『サンパリーツ』が、再び勇者の手に渡っただと?」

 従者が首を小刻みに振るわせだす。

「ああ。だがその勇者にはその剣を扱う『覚悟』が備わっていない。勇者にもかかわらず『勇気』も無いのだ」

 一同の顔が綻び、爆笑の渦が巻き起こる。

「アハハハハ!!そんな体たらくな勇者でしたら、魔王様の力で一ひねりでは?」

 その言葉に、シャリオットは表情を一変させる。

「我が輩が手ぶらで帰ってきたとでも?」

 何もかも見通しているような鋭い目つきで従者を凝視する。

「いえ、そんな滅相な・・・・・・失言でした」

「奴は確かに未熟だ。だが、『サンパリーツ』が勇者の手の中にある意味を、まさか忘れた訳ではあるまいな?」

「もちろんですとも、魔王様」

「そう、奴は『選ばれた』のだ。運命という神に」

 シャリオットが不敵な笑みを浮かべそう語ると、ミツキを自らの懐に呼び寄せた。

「そこで、我が輩が見つけ出したこの半端物の魔女だ。彼女は『空虚』の力を持っている」

 従者達は、シャリオットの言葉に呆気にとられ、狼狽した後どよめきが起こった。

「そんな・・・・・・勇者を殲滅する程の強力な魔術をこの者が秘めているというか?」

「そうだ。覚醒度合いによってはセカイをも滅ぼせる」

 ミツキの目に色が戻る。自らの置かれている立場を理解したようだ。

「え?そんな力、あるわけないですよ」

「まだ貴女は気づいていない。『何も考えない』という力の素晴らしさに」 


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