第54話~臭い物にはフタをしろ!~
ベルゼの頭の光が指し示したものを頼りに、再び冒険の旅に出ることを決めた一行。旅の準備を整えるため、一旦ネムの家で今後について話し合うことにした。
ネムに導かれた裏道に入れば、表通りとは訳が違い、そこら中の建物から黒く煤けた排気ガスを浴びて、体が汚れてしまった。
「嘘だろ・・・・・・」
サイジは咳き込みながら、早く道を抜けようと我先に駆けだした。
「ああ~だめだって。その先は」
ネムが何か言いかけたが、時既に遅し。サイジは見事に川へ落ちてしまった。
「その川、下水流れてるから気をつけてね」
「その前に止めるとか無いのかよ!」
既に下水の川にダイビングしてしまったサイジから、嘆きの叫びが湧き上がる。
「だって、うきうきで走ってる姿をみたら中々言い出せなくて」
サイジを見るネムの目は、さながら小動物を愛でるような眼差しだ。
「ちょっと、見守ってないで助けなさいよ」
セレジアがすかさずサイジに手を伸ばす。地獄に垂らされた蜘蛛の糸の如く必死に手にすがり寄り、川から這い上がった。言わずもがな、サイジの体は下水の腐臭に染め変えられている。
「全く、ちゃんと前見て歩きなさいよ」
「しょうがないだろ、煙たかったんだから」
セレジアも例に漏れず体中が煤けている。きっと煙の臭いで鼻の感覚が麻痺してしまったのであろう、サイジの腐臭には全く反応がなかった。
「まあ、とりあえずウチでシャワー浴びなよ」
ようやくネムにも罪悪感という概念が芽生えてきたのか、少ししょげた顔を覗かせた。
やっとの思いでネムの家に帰る。様々な地獄を味わった一行は、玄関にたどり着くや否や特大の溜息をついた。
「やっと着いたよ・・・・・・」
サイジがぼやいたのも束の間、ネムが口を開く。
「さ~て、シャワーでも浴びてすっきりしようかな~」
ネムがシャワールームに駆け込もうとしていたのに、いち早く反応したのはセレジアだった。
「ちょっと待って。順番が違うでしょ」
セレジアがネムの肩に手を掛け、その場に引き留める。
「え?なんで?」
「どう考えてもサイジが一番最初でしょ?アンタが川へ突き落としたようなもんだし」
「なんでサイジばっかりエコヒイキするのさ!まさか、セレジアってサイジのこと・・・・・・」
セレジアは一瞬で茹でたタコのように紅潮し、ネムに掴み掛かる。
「ななななにを言ってるのアンタ!そ、そんな訳ないでしょ!!」
「ほら~動揺してる~」
セレジアの額から黒い汗がしたたり落ちている。唇が小刻みに震えている。ネムはその様子を面白がってセレジアの頬を掴み、伸ばしたり縮ませたりしてからかっている。
さすがにその光景に見かねて、サイジがネムとセレジアの間に割って入る。
「もうやめなよ。セレジアが嫌がってるだろ?」
「うゆぐっえおうお?」
セレジアが何か言おうとしているが、何を言っているかがさっぱり分からない。
「もういい飽きた。わたし先はいりま~す」
つまんでいた頬を離し、ネムは一瞬の隙を突いてシャワールームに駆け込んでしまった。
「あ~!抜け駆けするな!!」
しかし時既に遅し、シャワールームには鍵か掛けられており、中に入る事はできなくなっていた。
「残念でした~」
「こら!開けなさい!」
金属製のドアを必死で叩いても、破られる訳も無く抵抗むなしくネムにシャワーは先行されてしまった。
「まあ、待ってればいずれ入れるからしばらく辛抱しよう」
サイジは興奮が収まらないセレジアの手を取り、気を落ち着かせようと試みる。だが、サイジは気づいていなかった。この行為は今やセレジアには逆効果に働くことを。
「ちょ、何?へ?」
セレジアもサイジに手を取られ、正気では居られなくなる。それもそのはず、今この空間はサイジとセレジアの二人っきりであるのだ。