第51話~できれば愛を~
「え?訳がわからないんだけど」
ネムはリモコンを手から滑らせ地に落としてしまった。
「二度は言わぬぞ」
シャリオットは微笑し、ネムの落としたリモコンを魔法で羽を操るかのように軽やかに持ち上げ、自らの手元に引き寄せた。手のひらに乗せられたリモコンは、徐々に砂に変化し姿形は見る影も無くなった。
「もうこれで貴女は戦えない」
ネムはリモコンの残骸を見つめ哀れんでいる。
それを横目にサイジは、シャリオットに詰め寄り問いかける。
「待ってくれ。それならなんでアンタは私たちに近づいたんだ?」
「いや、偶然下界に降りたって、ジャングルの民と戯れて暇をつぶしていたら、貴方達を見かけたんだよ」
「それだけ?」
「まあ、そうだな。そもそも地上で凄まじい光を見かけたから下界に降りたっていうのも理由にはなるかな」
「随分と気まぐれに魔王は降臨するんだな・・・・・・」
気の抜けた会話に、セレジアが嘆息する。
「シャリオット、本当に魔王なの?」
自信満々の笑顔でシャリオットは答える。
「もちろん。ほら、魔王の証」
そう話すと、マンキニから判子のようなものを取り出した。
「これが・・・・・・魔王の証?」
「そうさ。これにはどんな人間や動物でも印を押せば服従させられる魔法が掛けられている。これを持てるのはもちろん魔王だけ」
シャリオットは試しに持ってみろとばかりに手招きする。セレジアがシャリオットに近づき、その印鑑を持とうとする。しかし、その瞬間電撃が走り、セレジアの体が宙に舞い、放物線を描き背中から落下した。白目をむいて天井を仰いでいる。
「ほら。言った通りだろう?」
「すごぉ~い!」
その光景を見て、ミツキが拍手と共に喝采を贈る。
「いやいやいや、それはないんじゃないかな」
「だってぇ~それさえあればだれだってミツキのこと好きになってくれるってことでしょ?」
「それは魔王にならないと出来ないでしょ」
ミツキとサイジの不毛な会話のやりとりに、思わずシャリオットが吹き出してしまった。
「ハハハハハ!!面白い!貴女は美貌と共に素晴らしい思想をお持ちのようだ」
ミツキにシャリオットが歩をすすめる。
「貴女はここに居るべき人間ではない。自分でもそう気づいているハズだ。いつまで経っても機が熟さない勇者の隣に居るよりも、いつでも魔王の側に居て権力を振るうことが出来ることを、本当は望んでるんじゃないか?」
シャリオットは手を差し出す。ミツキは何のことかさっぱり分からない、といわんばかりに狼狽している。
「わたしはぁ・・・・・・そうだなぁ・・・・・・つよいおとこのひとがすき。それをそばでずっとみるのがすき」
「なら、我が輩がいくらでも見せてやろう。やろうと思えばセカイだって滅ぼせるぞ」
「ほんとに?」
「嘘じゃないさ」
シャリオットは魔王の証をミツキの前に出し、ちらつかせる。
「勇者の時代は終わったんだ。モンスターも居ない、ただ漠然と魔王を倒すことだけを願って生きる糧にしているふぬけた連中だ。旅を共にしたって得るものなんかないさ」
ミツキはその言葉を聞いて、黙考する。無限にも思える静寂を切り裂いて、彼女は口にする。
「分かった。ついていく」
「ハハハ、ならば我が軍門にて覇王の道をとくとみているがいい」
シャリオットはミツキに対し、魔王の従者の証である印を首元に押す。するとミツキは瞬間トロンとした目に変わり、こう呟いた。
「はい、魔王閣下様」
「嘘だろ・・・・・・」
サイジは只呆然と事の顛末を見守ることしか出来なかった。
「冗談よしてくれよ、なあ、ミツキ。シャリオットも何かの間違いだろ?」
「黙れ勇者!魔王閣下様の御前だぞ!口を慎め!」
ミツキの目つきと口振りが先ほどとは全く異なり、まさに従者そのものに変化してしまっている。
「さようなら。また会える日を楽しみに待っているよ」
シャリオットは大きな輪を空間に描くと、魔王の住んでいる城らしきものがその先に現れた。
「待て!こんなこと、もう止めよう!そうだ、話し合えば、分かり合えるはずだよ」
「そんなことを、巨大な力を手にしている我が輩に向かっていくら言われても説得力に欠けるぞ。まずは、我が輩と同等の力を身につけてから言うことだ」
シャリオットはお土産とばかりに炎の球を口から吐き出し、サイジを退かせた。
「では、また逢う日まで」
「行きましょう」
ミツキがシャリオットを城へエスコートする。一瞬、きらきらとした雫のようなモノが飛び散ったようにも見えたが、それは錯覚だったのかも知れない。




