第50話~インディゴラブストーリー~
「アンタのパーティに入った事なんか一度もないわよ!」
セレジアの叫びが辺り一帯にこだまする。
「全く、すぐにわめき散らすなんて品が無いですよ」
シャリオットは唇を舌でなぶるように舐めながら、セレジアに近づいてくる。
「君はとてもいい目をしている。純粋で無垢な眼差しを持っている。うん。素晴らしいと思う」
セレジアの顎を持ち上げ、目をまるで宝石を品定めするかのように覗き込む。
「触らないで!気持ち悪い」
シャリオットの手をセレジアは払いのける。
「素晴らしい!出会った頃とはまるで違う、『女』の眼だ」
「さっきから、口を開けば何を言ってんだアンタは!」
セレジアを弄んでいる光景を見かねて、サイジが飛び出してくる。
「おや?今度は勇者の登場だ!姫を守るってか?ハハハ」
シャリオットから乾いた笑いが漏れる。
「一体どうしたんだ?いつものシャリオットだったらそんな事言わないのに」
「いつものシャリオット?いつもって、まだ出会ったばっかりじゃないか。それなのに知った気になっているのか君は」
「・・・・・・」
サイジは二の句が継げなくなった。それを見計らって、今度はミツキの側へ駆け寄る。
「おや、こちらのお嬢さんには誰も構ってあげないんですか?」
ミツキは地べたに座って行く末を見守っていた。表情の温度を失った様相でサイジとセレジアをジッと見つめていた。
「なんですかぁ」
虚ろな眼でシャリオットの目線をさらう。シャリオットは再び笑みを浮かべて問いかける。
「あまりにも強固で入り込む余地のない絆を目にした時、人は二つの行動を取る」
シャリオットはミツキを両手を取る。
「一つは拒絶。それを無かったことにしてその場から立ち去る」
片手を持ち上げるシャリオット。
「そしてもう一つは、排除。力尽くでその絆を断ち切る」
ミツキの残る手を力一杯つねる。
「いたいいたいいたい!いたいですよぉ」
「さて、君はどちらを選ぶ?」
いたずらな吐息を混じらせて、耳元で囁く。
「どういうことですかぁ?」
「キミはサイジ君のこと、好きじゃ無いのか?」
ミツキはその言葉を鼻で笑った後、表情を元のふやけ顔に戻し、こう応えた。
「もちろん、サイジさん大好きです!」
「だったら、なんでセレジアとあんなに仲良くしているのに、何もしようとしないのだ?好きな人が横取りされているんだ、嫉妬の炎で相手に襲いかかること位あってもおかしくないんじゃないか?」
「あたしは、そんなタイプじゃないんですよぉ。ジワジワたいぷなんですぅ」
シャリオットに向かってミツキは弁明をしていたが、目線を一瞬そらしたのを彼は見逃さなかった。
「キミ、今嘘をついたね」
「嘘じゃ無いですよぉ」
「サイジが好きでパーティ入ったんじゃなくて、何か別の目的があって入ったんじゃないのか?」
「何の話かさっぱりですぅ。むずかしい話はよくわからないですよぉ」
ミツキが口ごもり始める。
「待ってよ。一体何の話をしてるの?」
セレジアが話に割って入る。
「我が輩はミツキに問いかけているのだ。出しゃばらないでもらいたい」
そう言った途端、セレジアの体が一瞬で凍り付いたように硬直し、その場から動くこともしゃべることも出来なくなった。
その光景を見て、突然ネムが騒ぎ出した。
「何の詠唱も無く魔法を使えるなんて・・・・・・本でしか読んだこと無かったけど、本当にそんな『魔王』みたいな人が存在するなんて」
「ハハハ、詠唱無しで魔法が使えるのは、この世に一人。『魔王』だけだ」
「それってつまり・・・・・・」
シャリオットはミツキも同様にその場で硬直させ、ネムの方を振り向きざま、こう告げた。
「そう、我が輩が『魔王』だ」