第45話~銃剣の柄はご褒美~
サイジ達は車輪の跡を追い、『セインテール』の入り口までたどり着いた。都市の中に入る為には空高くそびえ立つ壁の合間にある門をくぐらなければならない。門の前には屈強な兵士が銃剣を携えて直立不動で構えている。
「本当にこの中にミツキがいるの?」
セレジアは大きな門を見上げ、私に問いかける。
「ああ、車輪の跡を追ったらここにたどり着いたんだ。間違いない」
「早く入ろう。か弱い乙女のピンチに紳士はいち早く駆けつけるものだ」
シャリオットは手招きして門に入るよう促してくる。
「そうだな」
私たちは門の兵士を横目に、門へと入っていく。しかし、当然ながら制止される。
「お前たち、何者だ?」
私の肩を掴み、耳元で問いかけてくる。
「わ、私たちは・・・・・・あ、怪しい者ではありません」
思わず恐怖で声がうわずってしまった。
「だいたい怪しい奴はそう言うんだよな。ちょっと来て貰おう」
私はあっさりと兵士に首根っこを掴まれて、引きずられるように詰め所に連れて行かれそうになるが、そこにセレジアとシャリオットが割って入り、説得にかかる。
「ア、アタシ達は怪しい者じゃないです!勇者です!世界を回ってる勇者なんです!」
「勇者?」
兵士の動きが止まる。すかさずシャリオットが二の句を告げる。
「そうだ!魔法を使ったり、剣で魔王に対抗したり、世界で尊ばれている職業だぞ!分からぬか?」
「いや、その格好で勇者と言われても説得力が無いのだが」
シャリオットのブーメランパンツ一丁の姿を眺めながら兵士は微笑する。
「それに、魔法を使っているって、今言ったよな?」
「うむ」
「それは素晴らしい。おし、この三人をネム様の所につれていけ」
兵士が手を叩くと、詰め所の中から無数の兵士がぞろぞろと現れた。
「う、嘘だろ?」
「ネム様は魔法使いの『検体』をご所望だ。どうも近頃は魔法とかいう摩訶不思議なものにご執心のようで、魔法使いを見つけたら死刑にする前に私の所へ連れてこい、とのことだ」
あっという間に周囲を取り囲まれ、身動きが取れなくなる。
「ここでいっそのこと、魔法の実演をご覧に入れましょうか?」
セレジアが懐から魔道書を取り出し、構える。
「おっと、ここで暴れるのはよしてくれ。あまり大事にし過ぎると街中が騒ぎになってしまうからな」
兵士達は3人掛かりでセレジアを取り押さえる。魔道書も当然奪われてしまう。
「なにをする!乙女に暴力とは男の風上にも置けぬ奴だな!」
「黙れ変態!」
シャリオットは3人掛かりで顔やら脇腹やら尻やらを銃剣の柄の部分で殴りつけられる。
「まあ、そういうことだから、直ぐ殺されはしないと思うから。悪く思わないでくれ」
私たち3人は抵抗むなしく、兵士達によってネムの元へ『差し出される』ことになった。
「ところでネムって一体誰なんだ?」
護送車の中で私は運転手に尋ねる。
「え?お前おめでたい奴だな!ネム様も知らないでこの街に来たっていうのかい?」
運転手は流暢にかつ誇らしげに天才発明少女ネムについてのエピソードを事細かに語った。
「・・・・・・そうなのか。凄い奴なんだな」
「凄いってもんじゃないぜ!最近は機械に飽き足らず、魔法についても研究しているって訳だ。こうやっておいらは捕まえた魔法使いをネム様にお届けして、研究に貢献するのが仕事さ」
「そう、それは素晴らしいお仕事ね」
セレジアは溜息交じりに呟く。
「なんか噂だと、今日ネム様直々に魔法使いを捕らえたって噂だぜ」
「魔法使いを捕らえただと?」
シャリオットが身を乗り出して運転手に尋ねる。
「ああ、なんだかかわいらしい魔法少女とか名乗っている不思議な奴を見つけたって嬉しそうにしゃべってたぜ」
三人は眼を合わせ、合点する。
「間違いない。『ミツキ』だ」
「うん。どうせぶりっ子振りまいてたんでしょうけど」
「ぶりっ子からのギャップもそれはそれで堪らないが」
「アンタは女の子だったら何でも良いんじゃないの?」
「オッサン!私たちを、その魔法少女と会わせてくれないかな?」
運転手に尋ねる。
「いいぜ。だが、もう解剖されちゃってるかもしれないな」




