第44話~工房で攻防~
ネムが繰り出したロボット『R-CL0』は仁王立ちの構えから拳を構える体制に変え、瞬時に眼前に飛び出してきた。挙動を少し先に察知出来た私は、ロボットが直進してくるであろう軌道を離れるため、横ッ飛びで立ち退く。
「おやおや?魔法は相手の次の一手も読めるのかい?」
ネムはそんな事には一切目もくれず、彼女の手元にあるTVリモコンのようなものからロボットに矢継ぎ早にコマンドを送り続ける。余りの早さに指の残像しか視認することが出来ない。
それに応えるようにロボット『R-CL0』は俊敏な動きを見せる。足を地面から半重力装置を使用し数ミリ浮かせ、勢いを付けて私の方へ向かってくる。体を少しずらしそれを避けると、風切り音が耳の直ぐ側で鳴り、私の直ぐ後ろに移動した。
「あれ?どうしたの?怖くなっちゃった?ハハハ!」
立ち尽くしているように見える私を、ロボットは背後から襲いかかろうとする。しかし、既に私の足下の床には即席の魔方陣が敷かれており、その魔方陣を踏めばたちまち体はばらばらにされる。
ロボットが私に両腕を振り下ろそうとしたその時、咄嗟に私は飛び退きその攻撃をやり過ごす。その勢いのままにロボットは魔方陣に入り込むかと思いきや、その寸前で踏みとどまり再び私の方へ体を向けた。
「そんなのに引っかかるほど馬鹿じゃないよ」
ネムは眉間に皺を寄せ、右足を小刻みに揺らし始める。その揺れはしばらく続き、何か独り言を呟やいた途端収まり、顔に笑顔が戻った。
「魔法は特定条件が揃わないと発動しないの?ならそれをさせなければこっちの勝ちね」
ロボットは一切の躊躇を見せず私に連撃を仕掛ける。次々と出されるパンチとキックの嵐をかわしながら、呪文発動の準備を着々と整える。詠唱が終わらなければ魔法は使えない。それまではひたすら耐えなければならない。いつもであればサイジやセレジア囮役になってくれるのでゆとりを持って詠唱が出来る。更にセレジアが居ればコンボもキメられる。
「ちっ、こういう肝心なときに居ないんだから」
悪態をつきながらも詠唱は粛々と続けられる。
「なに?独り言?それともなにか仕掛けようとしてる?ねえ?ねえ?」
私の奇妙な口の動きになにか気づいたようだ。ネムはリモコンから即座にロボットの行動プログラムを書き換える。ロボットは1秒の停止の後、私の上半身、特に頭部を集中的に攻撃するようになった。
「やっぱり、ここまでか」
頭部への攻撃がくれば、一瞬ではあるが詠唱が中断してしまう。詠唱は何行かの文章を言い切らなければ、発動条件を満たさない事になる。つまり、文章の途中で詠唱をやめてしまったら、途中から唱えても意味が無いのだ。
「だれか、5秒で良いからアレを・・・・・・止めて・・・・・・」
もうこれ以上戦いを続けても防戦一方だ。戦うことより逃げることがこの場では最善の選択肢と考えても問題ないだろう。だが、この場所からどうやって逃げ出す?ここはネムの家だ。セキュリティに関しても今戦っているとロボットのような防犯装置が山のようにあるのだろう。
もはや打つ手無しか。その場にへたり込もうとしたその時。
「おいおい、『パーティ』を置いて先に街に入るなって」
玄関から聞こえてきたのは、聞きなじみのあるサイジ達の声だった。