第43話~ウマい話にはウラがある~
透明なチューブの中をエレベーターは疾走する。時速はどれくらい出ているのだろうか。マギルカで暮らしている時は、高い建物なんて無かったし、そんなものがあったら飛翔魔法で済んでしまう話だ。
弾丸のような凄まじいスピードで、目的の最上階に到着する。
「どうぞー」
案内された最上階は、ネムの占有スペースとなっている。壁や天井にビッシリと自身の発明品が並べられている。部屋全体はモノトーンで統一されており、窓から見える景色がより際立って見える。
「どう?この景色。すごいでしょ?」
街を俯瞰できるその場所は、まるでこの都市を支配している王者のような気分にさせる。
「すごい」
目を光らせて、その景色をジッと見つめる。既に辺りは闇に包まれており、あちこちで電灯が仄かな光で街を色づかせている。
「ねえ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
ネムがミツキの横にドスンと仁王立ちをし、尋ねる。
「なに?」
「あなたは魔法と機械、どっちが好き?」
「ええ?!そんな、どっちが好きかなんて・・・・・・」
「いきなりは選べない?」
「そうだよ。まだ機械に触れたのだって、今日が初めてだし」
その言葉にネムがハニカミ笑いを浮かべ、そうだよね、とつぶやき服のポケットから何か手帳のようなものを取り出した。
「私たちにとって魔法は『憧れ』なんだよ。いくら努力しても手に入れることの出来ない、才能みたいなものなんだよ」
手帳を開き、あるページを開く。そこには鍋をかき回す老人の男性が描かれていた。
「元々機械を生み出した科学は、錬金術っていうのが発祥なんだよ。必死に魔法という未知なるモノに、一歩でも近づこうと努力した」
次のページをめくると、そこにはフラスコを手にした白衣を着た男性が描かれていた。
「結局魔法が何なのかを解き明かすことは出来なかった。でもその研究の副産物として、魔法に近い『現象』を起こすことが可能になった」
ネムは手帳を閉じ、部屋一面に飾られた発明品を指さす。
「それが、『科学』なんだよ」
ミツキは呆気にとられていた。世の中の人間は当たり前のように魔法を使っているものだと思っていた。普通に魔法を使えるようになる器具と使い方さえ覚えれば誰でも使えるようになると教えられていた。(非 童 貞除く)だが、この街には魔法に憧れ挫折した人間がごまんといる。果たして何が本当の事実なのだろうか。
「でも、魔法はステッキと魔道書があれば誰でも使えるって習ったよ」
「それはまやかしよ。あなたの住んでいた街は元々魔法が扱える血筋が集まって住んでいるところなの。そんな教育をしててもおかしくないわ」
ネムの語気が段々強くなってくる。
「私は誰よりも『科学』を勉強した。一歩でも『魔法』という誰も到達したことのない、未知の世界を少しでも覗くために。それでも、魔法の鱗片すら触れることは叶わなかった」
すると突然、ネムの表情が一変し満面の笑みを浮かべた。
「だけど、それは今日まで。貴女という魔法少女の『検体』が手に入ったんだから!もう見えないモノなんて無くなる。『魔法』というパンドラの箱が遂に開かれる、記念すべき日となる!」
なるほど。道で出逢った時から、何かすんなり行くと思っていたら、そんなことだったのか。わたしを『検体』にする?解剖とか人体実験とかでもして魔法の仕組みを解明しようってか?
「『検体』になった覚えは一切無いんだけど」
「へ?もうこの部屋に入った瞬間にその事実は確定に変わったんだから。もう遅い、遅いんだよ」
ネムが指を弾くと、部屋の奥から二足歩行型のロボットが重々しい足音を響かせながら姿を現した。
「そんなんでわたしを拘束しようっての?」
ミツキは腰に付けているステッキと魔道書を取り出し、ロボットに対し身構える。
「さてさて、魔法はどれほどのものなのか見せて欲しいね。行け!『R-CL0』!!!!!」




