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青春18勇者  作者: 天川 榎
章間:強くなりたい道半ば
40/75

第40話~両成敗でいいじゃない~

 

 テントから出発し、しばらく経つ。周りに道以外何も無いので、セレジアとシャリオットの足音らしきものを聞くことが出来る。誰か違う人の足音かも知れない可能性はあるが、多分大丈夫だ・・・・・・多分。

 テントは道のすぐ側に張っている。10分程度歩けば、木が鬱蒼と生い茂るオアシスのような場所がある。きっとそこへ向かっているんじゃないのか。

 走るのはもう厳しいが、ここで頑張らなければ今まで積み重ねたものを失うような気がする。

 ボロボロの体に、ムチを打って欲しい。私にはムチが必要なんだ。だらけきった腐った精神にはムチのような劇物が必要なのだ。


 そうこうしているうちにオアシスにたどり着いた。辺りはすっかり暗くなり、オアシスにある湖に映る月明かりが跳ね返り、淡い萌葱色に森を染め抜く。

 月光の中に二つの陰が蠢く。セレジアとシャリオットだろうか。話し声も聞こえる。

「何を意地になっているのだ?面と向かって話せばいいものを」

 シャリオットが沈黙を切り裂いて口を開く。

「・・・・・・今は無理。なんかまだ、許せない」

 セレジアはまだふて腐れている。

「許す許さないも、本人と直接話さなければどうしようもないものだぞ」

「分かってるよ、分かってるんだってば!!」

 形にならない思いが振動となり、辺りの木々を揺らす。

「でも、あんな感じで出て行っちゃったし、面と向かって会話出来るかどうか分かんないよ」

「それでも、人は話さなければ分かり合うことは決して無いんじゃないか?どれだけイヤでも、どれだけ目を合わせるのが辛くても、話してみないことには何も前には進むことはないんじゃないか?」

 シャリオットは、居所を探すセレジアの手を取り微笑みかける。思いも寄らないお姫様的展開にセレジアの動揺は隠しきれず、ワナワナと体を震わす。

「い、いや、そ、それはご、誤解じゃ、ない、ないかな」

「誤解じゃないよ。本当さ」

 二の句が継げないセレジア。そのままシャリオットから後ずさりし、その場から立ち去ろうとする。だがシャリオットに握られているその手は、緩むことはない。

「許せないなら、罰すれば良い!!」

 傍から見ていた私は遂に我慢できず、二人の間に飛び出す。

「アンタ、なんで追いかけてきたの?」

 セレジアの瞳孔が開きっぱなしだ。すかさず腰に付けている、ムチを手に取る。

「何でって、セレジアのあんな顔見たら、居ても立ってもいられなくなって」

「嘘でしょ」

「なんでそんなこと言い切れるのさ」

 その言葉に、セレジアの眼光が瞬く間に鋭くなり始める。

「だってアンタは・・・・・・」

「ミツキが好きだって?」

 セレジアの言葉を無理矢理遮る。当のセレジアは拍子抜けしたようで、目を丸くしている。

「え、だだだだれが好きだって?」

 動揺し過ぎて口が回らないセレジア。やはり私のことを勘違いしていたようだ。

「いやいや、それ勘違いだし。確かに勘違いさせることをするミツキが悪いんだけど・・・・・・」

 セレジアの顔がすぐ近くに来ている。虚ろな目をしてこちらを見ている。生暖かい吐息が首筋を埋め尽くす。私の思考は一瞬にして真っ白になった。

「なら誓ってよ。今後一切は、ミツキがやらしいことしてきてもすぐに離れること!」

 神は試練を与えたがるものだ。ミツキのボディタッチの感触も忘れられない。何よりいつもミツキはムチでは無く抱擁というスキンシップで慰めてくれる。セレジアのムチよりよっぽど説得力のある、形ある『励まし』だ。

「ミツキもさ、アレでも気を使っているんだよ。傍から見ればセクハラにしか見えないかも知れないけれどさ」

 まるでミツキを擁護するような言い方に、セレジアは頬をピクピクと振るわせた。

「ほう、どこをどう見たら気を使っているように見えるわけ?」

「いや、だから、落ち込んでる時に励ましてくれるじゃん?本人は自覚無いかもしれないけど」

「そう・・・・・・、そうなんだ」

 セレジアはその言葉を聞き、顔を俯かせ鼻をすすり始めた。地面には雨でも無いのに雫の跡が一つずつ増えていく。

「アタシはさ・・・・・・自分でも不器用だって、分かってるよ。すぐ感情的になって、人をバチバチ叩いちゃったりする。けどさ、それってアタシもアタシなりに、思ってやってることなんだよ」

「それじゃ分からないよ!!人を突然ぶったり叩いたりしたって、気持ちが伝わるわけないじゃん」

「でもミツキのハグだって、やり方は違うけど同じことじゃないの」

「全然違うよ」

 そう告げると、私は泣きじゃくるセレジアの頬を思い切り叩いた。

「・・・・・・痛い、痛いよ!」

「セレジア、そういうことだよ。痛みじゃ気持ちは伝わらない。むしろ、より人を遠ざけて言葉すら拒絶する最悪の選択肢なんだ」

 そう告げている私も、段々感極まり、涙が頬を流れ始めた。

「悪かった。こうして、今までパーティだったのに、話すら出来てなかったな」

「アタシころ・・・・・・ごめんだざい・・・・・・」

 言葉になっていないが、その気持ちはその直後の抱擁で伝わった。

「あの、そろそろよろしいですかな御二方?」

 暖かいムードが漂う二人の間にシャリオットが割って入る。

「そろそろテントに戻ってはいかがかな?辺りも暗くなってきた故」


 三人は互いに微笑み合いながら、テントへと戻っていった。



 


 

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