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青春18勇者  作者: 天川 榎
章間:強くなりたい道半ば
39/75

第39話~まさかのラブコメ~

 訓練を始めて何日経っただろうか。

 私はひたすらセレジアと稽古を続けた。今まで一度もしたことの無かった、『努力』を行った。剣の振り方や体の捌き方など、普段の生活では到底縁のないことをやり続けた。

 しかし、普段やらないことは体に大きな負荷を掛ける。旅をし続けてきて、ある程度筋肉が付いたのかなと勝手に思い込んでいたようで、私の体はみるみるうちにガラス細工のようにアッサリと音を上げた。

「セレジア、ち、ちょっと休憩を」

「なにバテてるの?情けない!」

 膝を落とした私の尻を目がけ、すかさずムチを喰らわす。

「イッ」

「ムチで喜ぶための訓練じゃないんだから、ほら、さっさと起きる!」

 セレジアは私の手を取り、立ち上がらせようとする。

 私はというと、すっかり重力の虜となりその場を動こうとしない。

「ハァ、まったくレベル上がったら自動で体力が増えると思ったら大間違いなんだから。ちゃんと普段から運動しないからこうなるのよ」

「耳が痛いです・・・・・・」

 元引きこもりの私には散々聞かされてきた言葉だ。頭では分かっていたが、いざ実際に直面すると何とも遣る瀬無い気持ちになる。

「だいじょうぶですよぉ~!サイジさんは今まさに成長まっさかりなんですからねぇ」

 ミツキが不意を突いて私の背後から抱きついてくる。ほのかに、む、胸の感触が・・・・・・

「や、やめろよ、そういうの」

「あれれ~?あんまり嫌って顔してませんよぉ~」

 更に体を密着させてくるミツキに辛抱堪らず、思わず錆び付いていた足が潤いを取り戻したかのように動き、立ち上がることに成功した。

 その光景に見かねたセレジアは、鼻で笑った。

「アンタ・・・・・・ムチより、む、胸の方が嬉しいの?」

「え?何言ってるんですか、セレジアさん?」

 ミツキの胸に顔が綻んでいたのが見るに耐えなかったのか、セレジアの表情が一気に凍り付く。

「いいよ!だったらミツキと特訓してれば良いじゃ無い!」

 セレジアは踵を返し、寝泊まりしているテントに帰っていってしまった。

「じゃあ、ミツキといっしょにマンツーマンでたのしいことしよ~」

 その姿を見て、私は我に返りミツキの手を振り解いた。

「それは、何か違う気がする」

 そう言い残して、私もテントへ向かった。


 テントを隙間から覗くと、咽び泣くセレジアとそれをなだめるシャリオットの姿があった。

「・・・・・・アタシってそんなに厳しいかな」

 そう呟くとシャリオットが優しくセレジアの背中を擦る。

「そんなことはないさ。貴女のムチには暖かみがある。戴いた本人が言っているのだ」

「変態のくせに、カッコいい台詞言っても決まらないのよ」

 セレジアはシャリオットの手を背中から払いのけた。

「我が輩は紳士だ。泣いている女の子が居れば慰めるのは当然であろう」

 そう言うと、シャリオットはブーメランパンツの中からハンカチを取り出す。

「なんか、ほんのり暖かくて湿ってるんですけど」

「何を言う。それはシルク100%のハンカチだ。大事に扱ってくれ給え」

「そういう問題じゃ無いんですけど」

 自然とセレジアの顔に余裕が生まれた。

「良かった。その顔が見たかったんだ」

 シャリオットはセレジアの右頬に手を当て、優しく撫でる。

「ちょっと、手つきがやらしいんですけど」

「おっと失礼。つい可愛かったもので」

 セレジアが、シャリオットの手首を掴み、はね除ける。

「ありがとう、少しすっきりした」

「いえいえ、我が輩は只寄り添って薫りを楽しんでいただけです」

「ひぃっ・・・・・・」

 セレジアはその言葉に恐怖を覚え、脱兎のごとくテントを飛び出していった。

「そこで何をしているのです、サイジさん」

 テントを傍から見ていることは、視線か気配かで分かっていたらしい。

「すいません。入れない雰囲気だったもので」

「遠慮せずとも、良かったのですよ、入って来ても。それとも何か後ろめたいことでもあるのですか?」

「・・・・・・」

 私の唇がまるで磁石で吸い付いているように、全く開かなかった。

「貴方はセレジアさん達と今までパーティを続けて来たのでしょう?なのに何故貴方はセレジアさんの気持ちを理解しようとしないんですか?」

 シャリオットから飛び出す言葉は私の想像を凌駕していた。

「気持ち?」

「そう、気持ちです。貴方に対して、セレジアさんは今まで一生懸命尽くしてきたのではないですか?なのに貴方は、セレジアさんの前で、セレジアさんを裏切る行為をしたのではありませんか?」

 セレジアの前でしたこと。そう、ミツキといちゃついていたことだ。

「それがどうしたっていうんだよ。あれは不可抗力みたいなものなんだ。ミツキなりのコミュニケーションの取り方って奴なんだよきっと。だから私も仕方なく・・・・・・」

「仕方なく、じゃないだろ分からず屋め!!やはりセレジアさんにふさわしいのは我が輩のようだ。彼女の後を追う。付いてくるな、半端者」

 シャリオットが激高した。私がそれに怯んでいる間に、シャリオットはテントから立ち去った。

 私は独り、テントでうずくまった。何がいけなかったんだ。何がセレジアにとって苦痛だったんだ?

 ミツキといちゃつく光景が苦痛だったというのか。

 ・・・・・・まさか嫉妬していたというのか?


 私は居ても居られず、セレジアとシャリオットの後を追うことにした。


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