第36話~あっけない話~
目が覚めると、屋根のある場所に居た。
既に全てのことは私があのとんでもない悪臭で気絶している間に済んだという。
「アンタがノびてる間に、シャリオットがやっつけちゃたわよ」
セレジアは私の枕元で直立し、腕を組んで見下している。
「シャリオットさんが、ばすーん、どかーんってあっというまでしたよぉ」
ミツキが身振り手振りを交え、シャリオットの活躍ぶりを必死に伝えようとする。
しかし、残念ながらフワフワした動作のため何がどうなったのかがよく分からない。
「全く、我が輩が居なければどうなっていたことか・・・・・・感謝したまえよ」
「うわ、なんでお前がここに居るんだよ」
「居るも何も、我が輩がここまで運んだんだからな」
シャリオットはまるで尻をなで回すかのようなジェスチャーを私に見せつける。
「おい、まさか気絶している間にナニかしたんじゃないだろうな」
「それは男のひみつ」
不気味な含みを持った笑いを私に向ける。
「おいやめろ。寒気がする」
「だいじょうぶですかぁ?あたためましょうかぁ」
ミツキが杖を取り出し、火の魔法を唱えようとする。
「いやいやいや、建物燃えちゃうからやめて」
もちろん建物はコンクリート製では無く藁の家である。オオカミが来たら吹き飛ばされそうな程の脆弱さだ。
「てか、ここはどこだ?」
「わしの村の病院じゃよ」
待ってましたとばかりに出てきたのは、村長であった。
「大義であった、旅のものよ」
「これはどうも」
私の方に近寄ってくる。しかし、あの鼻をつくような刺激臭がない。
「あれ、あの臭いが無い」
「ああ、久しぶりに滝で身を清めたのじゃ」
「自覚あったんだ・・・・・・」
セレジアは村長が来て咄嗟に覆ったハンカチを口から離した。
「相手側の村長を見事に倒したそうじゃな」
「はい。アタシとミツキで」
「我が輩が倒したのだ」
村長の眼前にシャリオットが威風堂々と立ちはだかる。
「なんでシャリオット殿がこちらに?」
シャリオットは穿いているパンツのゴムを正し、言葉を発する。
「可愛い女性がピンチであった。それだけのことです」
「「嘘つけこの変態!!!!」」
女性二人が絶叫を上げる。
「ほほほ、元気な女子じゃのぉ。じゃが、そう否定しても助けたことには変わりないのじゃろ?」
「まあ、そうですけど」
セレジアが口をすぼめる。
「シャリオット殿も相手側とはいえ、この者らの力になってくれたようじゃな。感謝する」
「いえいえ。我が輩はか弱き女の子を守りたかっただけのこと。礼には及ばない」
シャリオットは自己愛に溢れる笑顔を振りまく。
「それに、この戦争自体『お祭り』の一環ですしね」
「え?」
セレジアの発した言葉に首をかしげる私。
「そうなのじゃ。すまないな、つきあわせてしもうて」
そう村長は呟くとパンツの中から金色のメダルを私に差し出す。
「これはかつて本当にあったマギルカとセインテールの戦争を今に伝えるための祭りなのじゃ」
100年ほど昔に村同士の戦いが、マギルカとセインテールの代理戦争に使われたという。双方の体制はそれぞれ支援する国から武器などを調達し、戦争は日に日に泥沼化していったという。その戦争で双方の村に甚大な被害をもたらし、死者は数万人に上ったという。
「この祭りで当時に思いをはせ、大国の手先とならず愚かな争いをせんように改めて心に誓うのじゃ」
「もしかして当時も戦争が起こった火種って・・・・・・」
「そうじゃ。『正装』が何であるかで戦い始めたのじゃ」
三人共、何も言い返すことが出来なかった。
余りに愚かな戦争を今に伝える愚かな祭りは、一人の変態の登場を除き恙無く幕を閉じた。
村長から勝利の証として、シルクのパンツを賜ることとなった。
「これで良かったのかな」
私はシルクのパンツを握りしめながら嘆息する。
「いいじゃない。とりあえず戦いには勝ったんだし」
セレジアはそう言い放つと、開放感からか、背伸びをしながら深呼吸する。
「そうだ。誇りに思え。我が輩のおかげで勝利出来たのだぞ」
二人の間に割って入るシャリオットは、きれいな歯とブーメランパンツを輝かせて私の方を凝視する。
「付いてこないで変態」
「付いてこないでといわれても付いて行くのが変態というものですよお嬢さん」
「気持ち悪いのよ!いい加減にしなさい!」
セレジアは容赦なくシャリオットにムチを喰らわせる。
「は・・・・・・はひゅーん!!!」
こうして、誰も望まないとしても付いてくるので、シャリオットはパーティの一員となった。
「ムチで叩かれるの、私だけじゃなくなったな」
「なんか言った?」
セレジアはシャリオットのプリップリの尻をムチでしばきながら私に聞き返す。
「いや、何でも無い」
私は作り笑いで応えた。