第35話~先行する閃光~
サイジが臭いに気絶している間に事は起こった。
相手側の村長が遂に現れたのである。
「どおりで辺り一帯が臭かったわけね」
鼻が臭いに侵食されて、感覚が鈍くなっていく。段々意識が朦朧としてくる。
「ってか、サイジ大丈夫?」
セレジアの目の前で、サイジはうつぶせの状態で倒れていた。
「きをうしなっちゃってますぅ」
ミツキがサイジの頬をペチペチと軽く叩くが、目を覚ます気配は無い。
「ダメだ、返事が無い」
「只の屍ってかい?」
セレジアとミツキがサイジの看護をしているうちに、相手側の村長が背後に迫っていた。
「アンタが臭すぎるから倒れちゃったじゃない!」
「いやいや、そんなに臭くないさ。ほら、近くによって嗅いでみなさい」
「それは遠慮しておきます」
セレジアは相手側の村長に出来た一瞬の隙を見逃さなかった。
すかさず剣を抜き、相手側の村長の首元に刃を立てる。しかし、相手側の村長も一筋縄ではいかない。
持っていた杖を振りかざした剣に当て、攻撃をかわしたのである。
「おや、やんちゃな娘さんだこと」
「なっ・・・・・・」
見かねたシャリオットが二人の間に入る。
「我が輩の前で、か弱き女の子をいたぶるのは、やめていただきませんか?」
「シャリオット、貴様寝返ったか?」
「我が輩は、全世界の美しい女性の味方です」
シャリオットはセレジアに爽やかスマイルを向けると、相手側の村長の杖を両手で掴み、そのまま投げ飛ばした。
「意外と力あるのねシャリオット」
セレジアが感心していると、シャリオットは間髪入れず第二撃の構えを整えていた。
「あんまり見とれていると、ケガをしてしまいますよ」
シャリオットには、戦いすら遊びなのかも知れない。手慣れた様子で相手側の村長を確実に追い込んでいく。
相手側の村長が起き上がってきたところに、すかさず飛び膝蹴りを頭に食らわせる。そして更に追い打ちを掛けるように、腹部に肘鉄を入れた。
相手側の村長は、その攻撃には耐えきれず、泡を吹いて倒れ、気絶した。
「乙女をいじめる者には天誅を」
シャリオットは股間からバラを取り出し、相手側の村長に手向けた。
「す・・・・・・すごいでしゅ」
目の前で起こったことに、まだ整理が付かないミツキはただただその光景を漫然と見ているだけであった。
「おや?まだ気絶しているのですか?」
シャリオットは、サイジに近づき、眼前に迫る。
「はい・・・・・・たぶん村長さんの臭いにやられてしまって。まほうでもなんとかならないんですぅ」
「そうですか。ではいったん村まで行って、診てもらいましょう。我が輩の知り合いに医学に詳しい者も居ますので」
「しかし、そちらの村の人達ははアタシ達のこと敵だといって襲ってはきませんか?」
セレジアがシャリオットの提案に異議を唱える。
「大丈夫です。この戦争自体も村同士の『祭』みたいなもんですから」
「は?」