第32話~イケメンはかく語りき~
一行は敵の本拠地に向けて進軍を始めた。しかし、一行にはこれと言った防具はもちろん無いので、相手の攻撃が当たれば即死も免れない。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
私が思わず弱音を吐いた。すると、ミツキが私の肩を叩いた。
「だいじょ~ぶ!なんとかなるって」
ミツキが根拠のない自信を見せつけてくる。
「それが一番怖いっていってるのに」
セレジアは舌打ちをしてミツキを睨み付ける。
「そう言っている奴からやられていくのは物語のセオリーだよね」
「あと、この戦争が終わったら結婚するんだとか言ってる奴とかね」
「そうそう」
「軽口きいてないで、前見ろ、前!」
既に空からは無数の石つぶてが降り注ぎ始めている。私の頬にもそれが擦れ、血がにじむ。
「痛っ・・・・・・」
「ほら、言わんこっちゃ無い」
セレジアがすかさず傷薬を出す。
「ありがとう。優しい時もあるんだな、セレジア」
「『時もある』は余計よ」
そうぼやくと背中に蹴りを入れられた。傷薬の意味無いじゃないですかセレジアさん。
「だいじょうぶですかぁ~」
その惨状を目撃してしまったミツキが私の元に駆け寄る。
「だ、大丈夫だから」
苦虫を噛み潰したような形相で言い放つ。
「だいじょうぶじゃなさそうだよ、ほら、背中みせて」
ミツキはおもむろに私の背中に触れ始める。ほのかな手のぬくもりが皮膚を伝う。
「これぐらいいつもの事だから、放っておけば勝手に治るからさ」
「だめだよ~こんなにくっきり足跡がついてるのに、強がり言っちゃだめ!」
ミツキはそう口を尖らせ叱ると、セレジアによってつけられた靴の痕に手をかざし、詠唱を始めた。
「あれ、魔法書は使わないの?」
「この程度の魔法なら暗記してるから大丈夫だよぉ」
昔はいちいち魔法書を取り出してたどたどしく唱えていたのに、いつの間に覚えたんだミツキ。
いわゆる見えないところで人知れず努力するタイプなのか?こんなチャランポランな喋り方からは全く想像出来なかった。
「そうか、ミツキはミツキなりに頑張ってるのか」
私は一体どんな努力をしただろうか。偶然手に入った何か特殊能力を持つ剣に操られ、自分に酔ってるんじゃ無いのか?
まあ、今のところはこれさえあれば無敵かな?ミツキには悪いけど、私にはツキがある。これだけの能力を手にする幸運がある。私はそれ自体が武器かもしれない。
そうこうしているうちに、敵の本拠地が間近に迫ってきた。
本拠地といっても、木の枝や葉で簡易的に陣を張っているだけで、到底籠城戦には向いていない。
兵士も隠れる素振りを見せず、鼻くそをほじりながらマンキニ一丁で突っ立っている。
「おいおい、本当に戦うつもりあるのかよ」
思わず私は呟いてしまった。
「何か作戦があるとかじゃない?油断させて来た敵に集中砲火を浴びせるとか」
セレジアは私の背中に隠れて耳元で話しかけてくる。
「きっと戦いたくないんじゃないんですかぁ~?武器もたないひとには攻めづらいですしぃ」
私の横に突っ立っているミツキは、おもむろにポシェットから手鏡と化粧道具を取り出し、メイクをし始めた。
「アンタ、もしかして今までスッピンで出歩いてたの?」
「ちがいますぅ~ナチュラルメイクですぅ」
「ナチュラルメイクでその顔とは・・・・・・どんなやつ使ってるの?」
セレジアがミツキに近寄り、化粧用具を漁り始める。
「これいいよぉ~UVカットも入ってるし」
「お前ら・・・・・・ここ戦場だぞ?」
「だいじょうだよぉ~アンタがなんとかしてくれるでしょ~」
セレジアがミツキがいつもやっているような舐めた口調で、体をくねらせぶりっこポーズを決めてきた。
「ミツキの真似をするな腹が立つ」
「ちょっとぉ~それってどういうことですかぁ~?」
ミツキがすかさず反論する。
「そろそろその喋り方改善した方がいいんじゃ無い?」
「え~かわいくないですかぁ~てへぺろ」
「だから、そういう仕草がいちいちイラつくんだって」
「フォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
「だからそういう・・・・・・フォ?」
セレジアでも無い、ミツキでも無い、全く異なる声が頭上から聞こえてきた。
空を見上げるとそこには、筋骨隆々の銀色のマンキニに身を包んだイケメンが、木の上から飛び出してきた。
「ひ、ひゃああああああああ?!!」
セレジアに向かってイケメンが飛んでくる。少ない布地をはためかせ、爽やかな笑顔を浮かべ、急速に近づく。とっさにセレジアは後ずさりをしたが、風に流されたのか、イケメンがそのままセレジアが移動した方向に進路が変わった。
「ちょっと!!ついてこないで!!!!」
「こんにちは、紳士淑女の諸君。ご機嫌いかがかな?」
セレジアの頭上に、イケメンが綺麗に着地を決める。
「我が輩はシャリオット。以後お見知りおきを」
「ちょっと!早く頭から降りて!!」
セレジアがシャリオットの足首を捕らえようとする。しかしシャリオットはそれに見向きもせず、セレジアの頭から目にも止まらぬ早さで飛び降りる。
「いけない、レディの頭に乗ってしまうなんて、紳士失格ですね。ソーリー」
するとシャリオットはマンキニのもっこり部分から、真っ赤なバラの花を一輪取り出した。
「ひいいいっっ!!汚い!!どこから出してきてんのよ!!」
「我が輩のバラが汚れているとでもいうのかね、貴女は」
シャリオットはセレジアに猛烈にバラの受け取りを拒否されると、途端に虎の目つきに変わり、四つん這いのスタイルで身構え始めた。
「それならば・・・・・・貴女に本当の愛の形というものをお教えしましょう」