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青春18勇者  作者: 天川 榎
第3章:魅惑の森 ジャモリスカ
28/75

第28話~強面オカマは好きですか?~

「なんじゃい、騒がしいなぁ」

 余りに大きな爆発音に驚いたのか、インパラジオ協会の事務所から関係者らしき人が出てきた。声色から察するに、おそらく老婆であろうか。

「なんだ、本物が中にいたのか」

 私は視界を奪う程の煙が漂う中を、遠くから聞こえたしわがれた声を頼りに歩を進める。

「わしも年寄りじゃからな、ロボットに任せておったのじゃ。じゃが・・・・・・」

「じゃが?」

「お前たちが壊しおって、どうしてくれようか?」

 段々と体の輪郭が見えてきた。思っていたモノと違う、ゴツゴツとした筋骨隆々なシルエットが見えてきた。

「仕方ないでしょ、いきなり攻撃してきたんだから」

 煙が薄くなっていき、目の前にその陰の正体が姿を現した。

「あれ?オッサン?」

「誰がオッサンじゃ!おネエさんとお呼び!」

 眼前に飛び込んできたのは、見慣れた老婆の受付嬢ではなく、メイド服を無理矢理着込み、今にも服がはち切れんばかりの筋肉を携えた、髭ズラの中年のオカマであった。

「ま・・・・・・マジっすか・・・・・・」

 セレジアが腰を抜かし、地べたに腰を落とした。その瞬間目線の先に、美しくそして儚い男のロマンが映り込んできた。

「セカイノ・・・・・・オワリ」

 余りのグロテスクなモノだったのか、セレジアは頭を落とし、気を失ってしまった。

「しっかりして!セレジアりゃん」

 ミツキがこれ見よがしに女の子走りでセレジアに駆け寄り、両腕ですくい取る。

「りゃん、って何だよ」

「かわいいでしょー」

「そんなこと誇ってる場合か!セレジアは大丈夫なのか?!」

 ミツキはセレジアの顔に耳を近づけ、呼吸を確認する。

「うん、大丈夫っぽいよぉ」

 私はその言葉に深い安堵の吐息を漏らした。

「それで、なんの用なんじゃ?」

 私に話しかけてきた。どうしよう、こんなオカマとは話した事なんて無い。人ですら慣れていないのに、これはハードルが高い。頼りのセレジアは気絶してしまっているし、ここは私が・・・・・・なんとかするしか・・・・・・

 ありったけの勇気を口いっぱいに込めて、意思の塊を空気に乗せる。

「・・・・・・実は、魔王への挑戦権についてなのですが」

「ふむ」

 上手く意思は相手の耳に伝わったようだ。間髪入れず、言葉を浴びせる。

「各地域のボスは、必ず殺さないといけないのですか?」

 オカマは黙って首を横に振った。

「じゃあ」

 二の句を察したオカマは私の言葉を遮り話し始める。

「お察しのとおり、相手を屈服させれば、それで問題ない。殺すか殺さないかは、別に問題ないのじゃ」

「なるほど、相手が負けを認めればそれで良いと」

「その通り」

「分かりました。ありがとうございます」

「例には及ばんよ。達者でな、若造」

 満面の笑みを浮かべ、去り際に私に唾を吐いた。

「あ、はい、あ、ありがとぐごじゃ」

「言葉位まともに喋れるようになってから出直してきな」

 オカマは片手を振り上げ、中指を立ててドアの向こうへと消えていった。

「・・・・・・一体何が起こったの?」

 セレジアがこのタイミングで意識を取り戻した。

「いや、何も。唾吐かれて終わった」

「はあ!?何も聞かないで帰しちゃったの?信じられない」

 既にセレジアの右手にはムチが握られている。

「ちょ、ちょっと待って!ちゃんと聞いたから、ね、お、落ち着いてよ」

「ほんと?アンタがそんなタマ持ってるとは思えないけどね」

「ほんとだって!ボスは別に殺さなくても、屈服させれば魔王を倒す資格が一つ得られるんだって」

「で?」

「いや、聞きたかったのってそういう事だったんじゃ」

「違うだろ!!!どっちがボスか聞きたかったの!!!!!」

 セレジアは結局私の尻にムチを入れた。

「はふぅっ!!!」

「気持ち悪い声出してるんじゃないよ!!」

「べ、別に問題ないじゃん!どっちも屈服させれば問題ないじゃん!」

 セレジアは嘆息し、こう告げた。

「確かに」

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