第28話~強面オカマは好きですか?~
「なんじゃい、騒がしいなぁ」
余りに大きな爆発音に驚いたのか、インパラジオ協会の事務所から関係者らしき人が出てきた。声色から察するに、おそらく老婆であろうか。
「なんだ、本物が中にいたのか」
私は視界を奪う程の煙が漂う中を、遠くから聞こえたしわがれた声を頼りに歩を進める。
「わしも年寄りじゃからな、ロボットに任せておったのじゃ。じゃが・・・・・・」
「じゃが?」
「お前たちが壊しおって、どうしてくれようか?」
段々と体の輪郭が見えてきた。思っていたモノと違う、ゴツゴツとした筋骨隆々なシルエットが見えてきた。
「仕方ないでしょ、いきなり攻撃してきたんだから」
煙が薄くなっていき、目の前にその陰の正体が姿を現した。
「あれ?オッサン?」
「誰がオッサンじゃ!おネエさんとお呼び!」
眼前に飛び込んできたのは、見慣れた老婆の受付嬢ではなく、メイド服を無理矢理着込み、今にも服がはち切れんばかりの筋肉を携えた、髭ズラの中年のオカマであった。
「ま・・・・・・マジっすか・・・・・・」
セレジアが腰を抜かし、地べたに腰を落とした。その瞬間目線の先に、美しくそして儚い男のロマンが映り込んできた。
「セカイノ・・・・・・オワリ」
余りのグロテスクなモノだったのか、セレジアは頭を落とし、気を失ってしまった。
「しっかりして!セレジアりゃん」
ミツキがこれ見よがしに女の子走りでセレジアに駆け寄り、両腕ですくい取る。
「りゃん、って何だよ」
「かわいいでしょー」
「そんなこと誇ってる場合か!セレジアは大丈夫なのか?!」
ミツキはセレジアの顔に耳を近づけ、呼吸を確認する。
「うん、大丈夫っぽいよぉ」
私はその言葉に深い安堵の吐息を漏らした。
「それで、なんの用なんじゃ?」
私に話しかけてきた。どうしよう、こんなオカマとは話した事なんて無い。人ですら慣れていないのに、これはハードルが高い。頼りのセレジアは気絶してしまっているし、ここは私が・・・・・・なんとかするしか・・・・・・
ありったけの勇気を口いっぱいに込めて、意思の塊を空気に乗せる。
「・・・・・・実は、魔王への挑戦権についてなのですが」
「ふむ」
上手く意思は相手の耳に伝わったようだ。間髪入れず、言葉を浴びせる。
「各地域のボスは、必ず殺さないといけないのですか?」
オカマは黙って首を横に振った。
「じゃあ」
二の句を察したオカマは私の言葉を遮り話し始める。
「お察しのとおり、相手を屈服させれば、それで問題ない。殺すか殺さないかは、別に問題ないのじゃ」
「なるほど、相手が負けを認めればそれで良いと」
「その通り」
「分かりました。ありがとうございます」
「例には及ばんよ。達者でな、若造」
満面の笑みを浮かべ、去り際に私に唾を吐いた。
「あ、はい、あ、ありがとぐごじゃ」
「言葉位まともに喋れるようになってから出直してきな」
オカマは片手を振り上げ、中指を立ててドアの向こうへと消えていった。
「・・・・・・一体何が起こったの?」
セレジアがこのタイミングで意識を取り戻した。
「いや、何も。唾吐かれて終わった」
「はあ!?何も聞かないで帰しちゃったの?信じられない」
既にセレジアの右手にはムチが握られている。
「ちょ、ちょっと待って!ちゃんと聞いたから、ね、お、落ち着いてよ」
「ほんと?アンタがそんなタマ持ってるとは思えないけどね」
「ほんとだって!ボスは別に殺さなくても、屈服させれば魔王を倒す資格が一つ得られるんだって」
「で?」
「いや、聞きたかったのってそういう事だったんじゃ」
「違うだろ!!!どっちがボスか聞きたかったの!!!!!」
セレジアは結局私の尻にムチを入れた。
「はふぅっ!!!」
「気持ち悪い声出してるんじゃないよ!!」
「べ、別に問題ないじゃん!どっちも屈服させれば問題ないじゃん!」
セレジアは嘆息し、こう告げた。
「確かに」




