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青春18勇者  作者: 天川 榎
第2章:魔法の街 マギルカ
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第21話~旅立ち、そして~

「やった!魔法が使えるようになった!」

 セレジアは大人げなく、ピョンピョンと嬉しげに跳ねる。

「でしょ!?かんたんでしょ!名前を念じて、使いたい魔法を思い浮かべるだけなんだからさ」

「これなら、魔法使いとかいう専門職は要らないわね・・・・・・」

「そうなんだよねぇ」

 ミツキは、膝をがっくり地面に落とし、床に這いつくばる。余りにも気を落としているのを見かねて、セレジアが駆け寄り、背中を撫でなだめる。

「まあ、こうやってレクチャーしてくれる人は必要だから、ね」

「そ、そうだよね。ミツキ、要らない子じゃないよね・・・・・・」

 顔を上げ、ミツキはセレジアの様子を窺う。セレジアは温かい笑顔で迎える。その笑顔に勇気づけられたのか、ミツキはゆっくりと立ち上がり、地を踏みしめる。

「ありがとうセレジア、元気でたよ」

「そう、それは良かった」

 ミツキにしてはやけに素直だなと私は思ったが、少しこの街に来て成長できたのかなと勝手に思い込む。あ、そういえば・・・・・・

「すっかり忘れてたけど、市長倒しちゃったんだよね、昨日」

「え」

「ほんとですかぁ~!」

 二人はその言葉に、度肝を抜かれた。

「うん。この剣も、市長と戦ったときに手に入れたんだよ」

「へぇ~、あのヘタレが、まさか市長に勝っちゃうなんて、驚きだわ」

「私もやるときはやります」

 胸を張ってドヤ顔を浮かべる。

「やるときやってくれないと困るんだけどね」

 セレジアの凍り付いた笑顔に、私は二の句が継げない。

「それよりどうするの?この街の市長倒しちゃったわけだけどさ」

「誰かに市長やってもらうしか無いだろ」

「誰がやるの?選挙かなんかで決めるの?」

 今まで市長という存在自体を考えたことは無かった。まさか市長を倒す機会を与えられ、打倒しあわよくば市長になってしまうというから驚きだ。つい最近までニートだったのに。

「いや、原則として、市長を倒した人が次の市長になる」

 私が市長になるなど、到底無理な話だ。コミュ力無いし。

「さすがにそれは無理」

「じゃあどうするのさ?ウチのパーティから出すの?」

 セレジアがそう言って、目線をミツキに移した。

「それは・・・・・・」

 乾いた笑いが自然に起こった。

「ちょっと~ミツキをみてわらわないでくださいよ~!なにか顔に付いてますかぁ?」

「いい加減そのムカツクしゃべり方やめたら教えてあげる」

 セレジアはいつものようにムチをどこからともなく取り出し、目の前でしならせる。

「ひぃい・・・・・・かんべんしてください」

「まあまあまあ、落ち着いて」

 セレジアのムチを、背後から気配を殺して取り上げる。セレジアはさながら豆鉄砲を食らった鳩の様相だ。

「そんな術、いつの間に身につけたの?」

「まあ、それは後で教えるからさ。実は、市長について、名案が浮かんだんだよ」

「まさか本当にミツキを市長にするとか抜かすんじゃ無いでしょうね」

「それは流石に脳が腐ってなきゃ言わない台詞だよ」

 その言葉にミツキは顔面蒼白になる。それを脇目に見ながら私は二の句を継ぐ。

「そう、市長なんだけど、『デン』の団長なんてのは、どうかな」

「ああ、確かにいいかもね。アタシ達が手懐けた奴らに任せるってのは安心出来るしね」

「じゃあ、早速声掛けてみるか」

 少し心の重荷が取れた一行は、『デン』のアジトへと軽やかに歩を進めた。


「え!?市長になれって?冗談キツイぜ」

 団長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「まあ、突然の話ですから、ムリも無いですよね。まだこの街には貧困に喘ぐ方々がたくさんいらっしゃるのに、それを解消できるチャンスが回ってきているのに、易々と見逃す義賊なんて、ただの偽善者ですよねホント・・・・・・」

 私は悲壮な語り口で述べる。

「なんか、そう言われちゃ、俺も黙っちゃ居られねぇな。偽善者って言われるのが一番癪に障るんだ」

 まんまと口車に乗った。勝ちパターンである。

「なら・・・・・・」

「ああ、受けるさ。やってやるさ、市長」

 その勇壮な言葉に、団員達は歓喜に震える。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「流石団長!懐の大きさが違うぜ!」

「お前ら、騒ぎ過ぎだ!」

 団長の言葉から、何とも言えない幸福感がにじみ出ている。

「では、あとは宜しくお願いします」

 その場を立ち去ろうとしたときに、団長から声が掛かる。

「おい、お前ら、何処行くんだ?」

「ちょっと魔王を倒しに出かけます」

「魔王?!正気か?あれは何人が束になっても勝てる相手じゃないぞ」

「まあ、そうなんでしょうけど、でも、倒さなきゃいけないんです。元居た世界に戻るために」

「そうか、外から来たのか。・・・・・・でもまあ、なんだ、助けがいるようならさ、いつでも声掛けてくれよ。お前らには大きな借りがあるからさ」

 団長は、私の胸に拳を軽く突いた。うっすらと、頬に雫が滲む。

「ありがとうございます」

「ここから魔王に辿り着くには、マギルカの東街道から森の街『ジャモリスカ』を通って機械都市『セインテール』に向かわなきゃならない。少し古いが、これが道の地図だ。餞別に持って行ってくれ」

「これはどうも、助かります」

「まだまだ道は長いが、お前らならきっとやれるさ。頑張りな」

 団長の去り際の背中は、どの男よりも多くのものを語っているように見えた。





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