第20話~魔法使いになろう~
翌朝、ミツキが満面の笑みで宿に帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
私は、街で買った旅行雑誌を読み漁りながら生返事した。
「何してたの?」
セレジアは青い水玉模様のパジャマに、天辺に球が付いた円錐帽という出で立ちでベッドから目を擦りながら、姿を表した。
「いや、それがぁ・・・・・・」
ミツキが手にしていたのは、三冊の魔法書だった。
「みんなの分買って来ちゃった!てへぺろ」
「は?どうしちゃったの?アタシ達、魔法とか使えないし」
「だいじょうぶ!あたま悪くても、使えるようになってるから」
「頭悪くってもって・・・・・・自虐ネタ?」
セレジアが鼻で笑う。
「ほんとだって!ほら、とりあえず持ってみてよ」
手に持っていた魔法書をおもむろに、私とセレジアに無理矢理押しつけてきた。
すると、手にした瞬間魔法書が眩い光を放ち始め、勝手に魔法書が手から離れると同時に物凄い勢いでページが捲れていく。
「何これ?!どうなってるの?」
「これは登録作業。ほうっとけば勝手に終わるよ~」
そんないい加減な事を言い放つと、勝手に私のベッドに横になった。
「徹夜でねむいからねるわぁ~おやすみぃ~」
「おい」
「うわぁ~サイジさんの香りがする~くんかくんか」
「やめろ!」
まだ左手の宙では魔法書が怪しく光り続けているが、あまりにも耐えがたい光景であったので私は、ミツキの手を取り、ベッドから引っ剥がそうとした。
すると、何と言うことでしょう。ミツキの体が突如光り出し、その光がみるみるうちに私の持っている魔法書に吸収されていくではありませんか。
「なんだこれは?!」
「チャネリングだよ」
突然、物憂げな顔を浮かべミツキは口を開く。
「ちゃ、ちゃねりんぐ?」
「チャネリング!これを結ぶと、チャネリングした相手の思考が、パートナーのどちらかが魔法使用時に勝手に入ってくるようになるの」
「へー」
その話を聞き、ニヤリと微笑んだセレジアは、残る私の手を握る。すると、私とセレジアの体も光り始め、互いの魔法書に収まっていった。
「あっ!いきなりは無いでしょ・・・・・・」
私は悪態を付き、ベッドに腰掛ける。チャネリングと同時に魔法書の登録作業も終わったようで、光は既に失われていた。
「いいでしょ、減るもんじゃ無いし」
「まあ、そうですけど。パーティ、ですからね」
私のその言葉に、満足げな顔をするセレジア。
「あ!思い出した!」
突拍子も無くミツキが声を上げる。思わず私とセレジアは肩をビクつかせた。
「何だよ!いきなり」
「チャネリングなんだけどさ、心の共有だけじゃ無く、体の面も共有化されるから」
「つまりどういうこと?」
「相手の心の声だけで無く、チャネリング時に相手の体力やダメージも共有される。つまり、チャネリング相手が何かキズを負った時、自分にもそれが伝わるってこと」
ミツキはどこから取り出したか分からない待針を、魔法書を発動させると同時に私の掌に軽く刺した。
「「痛っ!!!!!!!」」
同時に私とミツキが声をあげた。
「なるほどね。チャネリングしている時は、相手のダメージがモロに自分にも来るってことね」
「まあ・・・・・・正確に言うと、チャネリング相手とダメージを分割する、って言い方がただしいかも」
柄にも無い、ミツキの魔法使い講義は朝っぱらから延々と続いた。