第02話~主人公になる資格はないんですか?~
目の前に広がっていたのは、青々と丈が低い雑草が茂っている大草原であった。驚く事なかれ、今までにもよく見た光景だ。ゲームの中では。ここは現実か、それとも幻あるいは夢か。取りあえず自分の頬をつねってみる。肉が引っ張られている鈍い痛みが走ったが、何も変わらない。
周りを見渡してみる。ドアどころか部屋、建物すらない。延々と続く平野。遠方にはクッキリと地平線が現れている。肌を突き刺すような太陽の光が、思考を鈍らせる。
「もう、ここで死ぬか」
平野に寝転び、目を閉じ、日が沈むのを待った。昨日は徹夜でネトゲをプレイしていたので、眠気は一瞬で訪れた。
はて、何時間経ったのだろうか。いつの間にやら辺りが騒がしくなっている。草をかき分ける音が、あちこちから聞こえてくる。上体を起こし、様子を窺ってみる。すると、無数のライトが私を一瞬で照らした。
「誰だ!」
野太いオッサンの声が、響く。
「に、人間の様だ」
か細い女の声も混じる。
「こいつはもしかしたら・・・・・・おい、村に連れて行くぞ」
その号令と共に私の手足を4人がかりで取り押さえ、ロープで頑丈に狢縛りにされ、棒で担がれて村まで運搬されることになった。抵抗しようとも一瞬考えはしたが、たいした力も無いし第一面倒くさいことになりそうなので、寝たふりしてその場をやり過ごすことにした。
移動中に、会話が断片的に耳に入る。
「・・・・・・またダメか」「今度こそとは思ったんだが」「こいつじゃ主人公どころか勇者も無理じゃ・・・・・・」
一体私に何を期待していたのだろうか。私のような状態でこの世界に送り込まれている奴がごまんといるということなのだろうか。だとしたらあの組織は、日本のあらゆるニートにあの手紙を送りつけているということなのか?いや、それは早計かも知れない。もしかしたら、私は本当に選ばれた人間なのかもしれない。今まで生きてきた人生の中で一度も報われたことが無かったんだ。今度こそ「表」で輝く存在になれる!
そう思っていたのも束の間、私は独房に放りこまれた。勢い良く地面に叩き付けられた衝撃による痛みで、思わず目を開けてしまった。周りには3人、私を取り囲んでいる。逃亡できないように、一瞬の行動でさえ反応してくる。
「おはよう」
テディベアのような体格のヒゲ親父が、気味の悪い笑みを浮かべ、私に話しかける。
「お、おはよう・・・・・・ございます」
その言葉を聞いて、ヒゲ親父が、顔を曇らせる。そして、後ろに控えていた人々に首を横に振り何かを伝えると、冷笑しながら私に告げる。
「どうやら見たところ、君には主人公の資格が無いようだ」
主人公?本当に『インパラジオ協会』やらの手紙に書かれていたことは真実だったってことか?でもあの手紙には『主人公になる権利』がもらえるって書いてあったハズだ。だったらこの世界になんで飛ばされてきたんだ?
「いきなり何ですか?いきなりこの世界に飛ばされて、訳分からないまま、主人公云々の話されても・・・・・・」
「そういうところが、主人公にふさわしく無い」
メガネをかけたポニーテールの金髪美女が、フリルの着いたロングスカートを左右に揺らしながら私を諭す。
「この世界じゃ、『主人公』で無ければ存在価値は無い。ただの駒になる」
ヒゲ親父がヒゲを誇らしげに弄りながら突き放すようにに告げる。
「だから、何の話をしているんですか?!」
「まあ、無理も無い。いきなり違う世界に来て、この世界の話をしても戸惑うだけだもんな」
「とにかく、さっき言ってた『主人公』ってどういう意味ですか?」
「言葉の通りの意味だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「え?」
「取りあえず君は、このままじゃこの世界ではアッという間に殺されるのがオチだこれを持ち給え」
ヒゲ親父から渡されたのは、血がグリップ部に滲んでいる木刀であった。